• これまで歩んできた時間や経験が、人生をさらに豊かに。新しい愉しみを見つけた随筆家の山本ふみこさんに会いに行きました。今回は、東京から熊谷へと拠点を移した日々の暮らしについて伺います。
    (『天然生活』2021年12月号掲載)

    住まいは替われど毎日を愉しむ心は変わらずに

    土間の一角から、温かなだしの香りが広がります。まだピカピカですました表情のステンレスシンクと、懐かしい古家具。手焼きタイルのシックな風合いが、両者をやさしくつなぎます。

    ここは、随筆家・山本ふみこさんの新しいキッチン。住み慣れた東京を離れ、埼玉県熊谷市へと引っ越してきました。

    夫の生まれ育った家は、築150年を超す古民家。その家を、引き継ぐことにしたのです。

    画像: 「古民家に、イギリスの古いもののエッセンスを添えたい」と、キッチンには手焼きのタイルを。同様に、土間の一部にも深い赤のアクセントクロスを取り入れた

    「古民家に、イギリスの古いもののエッセンスを添えたい」と、キッチンには手焼きのタイルを。同様に、土間の一部にも深い赤のアクセントクロスを取り入れた

    農家、そして養蚕家でもあった実家は、長屋門や蔵を備えた立派なつくり。運よくめぐり合えたという地元の大工さんらの力を借り、残していきたい古きよき部分を大切にしながら、住みやすく手を加えることにしました。

    広い土間にはダイニングテーブルを、さらに仕事場もここに設け、暮らしの大半を集約しています。

    「土間の奥は、昔は牛がいた場所。いまは私の仕事机があるなんて、笑っちゃいますよね」と、山本さん。自由な発想で、新しい住まいを楽しむ様子が伝わります。

    画像: 土間の奥の仕事スペース。大工さん力作の本棚に、この先も手元に残したい本だけを厳選

    土間の奥の仕事スペース。大工さん力作の本棚に、この先も手元に残したい本だけを厳選

    天井を数十年ぶりに取り去ると、見事な梁や柱が顔を出しました。その立派な構造に、「こんな仕事は、自分にはできないなぁ」と大工さんもぽつり。

    時代とともに失われてきた技術や歴史が、この家に息づいているのを山本さんも肌で感じたといいます。

    その一方で、これからの暮らしは、懐かしさや味わいを愉しむだけではまわしきれなくなるかもしれません。自分たちが居心地よく、現代の暮らしになじむよう、キッチンやお風呂場といった水まわりは、新しい設備に整えました。

    画像: 長く続けてきた、玄関に白ユリを飾る習慣。土間に設けた階段の下が定位置に

    長く続けてきた、玄関に白ユリを飾る習慣。土間に設けた階段の下が定位置に

    「人は歳を重ねるごとに便利さを追求することと、手間ひまをかけて自分の手でつくっていくことのどちらか一方に片寄っていくのだと思っていました。でも、ここでは両輪でバランスをとっていけたらと思っています。東京とは勝手が違う、古い家での暮らしですが、少しは便利さも取り入れて。生活は毎日のことだから、無理をしすぎず、新しいものも取り入れていかないと、疲れてしまうかもしれないでしょう?」



    <撮影/有賀 傑 取材・文/藤沢あかり>

    山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
    暮らしの機微をつぶさに、「面白がり」ながら、独自の視点で照らす随筆家。「ふみ虫舎通信エッセイ講座」主宰。著書に『家のしごと』(ミシマ社)など。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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    別冊天然生活『歳を重ねて楽しむ暮らしvol.3 』(扶桑社ムック)

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    第1章 これからの「おいしい生活」のつくり方
    料理家・大庭英子さんには、いまの自分にちょうどいい、レシピ6品と台所仕事の工夫を、スタイリストのchizuさんには、気負わず楽しむ、テーブルコーディネートのコツを教えていただきました。

    第2章 おしゃれは心のビタミン!
    中野翠さんのエッセイと、ぬ衣さん、山下りかさんの春夏秋冬のコーディネートを紹介します。

    第3章 豊かな人生のための幸せの支度
    山本ふみこさん、ユキ・パリスさん、中島デコさん、松場登美さん、横尾光子さん、坂井より子さんの暮らしの流儀を紹介します。

    第4章 心身とお金を整えるために
    家で簡単にできる体操や、節約のこと。

    第5章 人生の豊かな「しまい方」
    石黒智子さんがはじめた終活と、井上由季子さんが経験した家族の介護について、お話を伺いました。



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