(『天然生活』2022年4月号掲載)
吉本由美さんが選ぶ“心のデトックス"のための「本と映画」6作品
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
檸檬
得体の知れない憂鬱に苛まれる主人公が、果物屋で買ったレモンひとつを手に入れ、一瞬そこから解放されたように感じる。
「何度も読み返す本。表現の美しさに、いつもため息つかされる」
噂の娘
遠い街で父親が入院し、母は知り合いの美容室に主人公と弟を預けて旅立つ。商店街の人々の生き生きとした描写が素晴らしい。
「1950年代の懐かしい日々。少女の甘い思い出が切なく迫る」
インコのおとちゃん
それからこれから
写真家の村東剛氏夫妻とおとちゃんの日常。おとちゃんが10歳を過ぎ、老いを感じながらもやさしい眼差しで生命の貴重な瞬間を切り取る。
「おとちゃんとの日常が切なくいとおしい」
友だちのうちはどこ?
友だちの大切なノートを持ち帰ってしまった少年が、ノートを返すために自分の家とは反対方向にあるその家を探し歩く。
「少年の一途な行為に、真摯であることの素晴らしさを改めて知る」
パターソン
同じ時間、同じ道を通り、職務を終え帰宅。主人公は心に浮かぶ詩をノートに書きつける。変わらぬ日々のいとおしさ。
「バス運転手の1週間が淡々と描かれているだけなのにこの感動は!」
ハンナとその姉妹
ニューヨークに住む三姉妹と彼女たちに関わる男性たちとの物語。ウディ・アレンらしい、終幕の大団円が心地よい。
「都会暮らしにヘタッたときに観ていた作品。元気と希望がわいてくる」
その日々は、ずっと続きはしないから
疲れることも多々あるし、サプライズも起こらない。そんな日常に不満を覚えたときに、ふと観たくなるのが映画『パターソン』。
「主人公が、毎朝同じ道を通って出勤する。繰り返されるそのシーンを見ると、いつも涙が出てくるんです。『ああ、私たちの生活って、こうよね』って。何も起こらないのが、いいのよ」
ときに鬱々としながら、なんとなく流れていく暮らし。実はそれこそが素晴らしい。写真集『インコのおとちゃん』もその感覚を思い出させてくれる1冊。
「終わりがある、とわかっているからこその目線というのかな。大げさな表現はひとつもないけれど、その覚悟を感じるんです。心の底の切実な思いが、写真と文章から伝わってくるんです」
淡々と過ぎる今に不満を抱いているけれど、いつかは切ない気持ちで振り返ることになる。日々の退屈さこそが、感謝すべきことだったと気づけるのです。
心のデトックスに欠かせない飲みもの
トワイニングのクオリティレディ グレイ
フルーティーで印象的な味わいが人気。
「アール グレイをベースに、柑橘系の果皮と矢車菊の花が入ったさわやかな紅茶です」
〈撮影/山田耕司 取材・文/福山雅美〉
吉本由美(よしもと・ゆみ)
創刊間もない『アンアン』『クロワッサン』などの女性誌を中心に、雑貨、インテリアを扱うスタイリスト兼ライターとして活躍。その後、執筆活動に専念。平成23年より、生まれ故郷である熊本に移住する。近著に『イン・マイ・ライフ』(亜紀書房)がある。
インスタグラム@yoshimotoyumi_0012
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです