• 東京・合羽橋で革製品店「と革」を営む髙見澤 篤さん。捨てられてしまう動物の皮を革として蘇らせ、製品づくりを行っています。野生であるがゆえに穴や傷などが残っていることもあるジビエ革ですが、天然のものにしかない魅力があると高見澤さんはいいます。「いただいた命をどうむだなく生かすか」を模索している高見澤さんにお話を伺いました。
    (『天然生活』2021年3月号掲載)

    廃棄されるジビエ皮を革へ。命を大切に利用する

    画像: 髙見澤さんが手がける革製品店「と革」では奥には工房が併設され、さまざまな獣の革も保管されている

    髙見澤さんが手がける革製品店「と革」では奥には工房が併設され、さまざまな獣の革も保管されている

    調理道具や器の卸売店が立ち並ぶ、東京都台東区の合羽橋道具街。

    その路地裏で革製品店「と革」を営む髙見澤 篤さんは、この場所でのものづくりに、「食したものを再料理する」という意味を密かに込めています。

    画像: 風合いある革小物が並ぶ「と革」店内

    風合いある革小物が並ぶ「と革」店内

    狩猟、そして近年おびただしい獣害への対策によって命を奪われる熊や鹿、猪などの獣たち。その一部は料理人の手でジビエとして生かされますが、残る皮の大半は、山に捨て置かれるか、産業廃棄物として処理されるのが実情です。

    髙見澤さんが手がけるのは、それらをタンナー(なめし業者)の技術と自身のデザインで「ジビエ革」として昇華させること。

    「食べたあとの副産物を大事に使う」をコンセプトに野生の皮と相対し、「生きていたものをどう生まれ変わらせるか。いただいた命をどうむだなく生かすか」を模索しています。

    画像: 革を成形して漆をかけたスプーンは、軽く繊細な口あたり。フランスの骨董店で出合ったティースプーンを模している

    革を成形して漆をかけたスプーンは、軽く繊細な口あたり。フランスの骨董店で出合ったティースプーンを模している

    最近では、革を「木地」として成形し漆をかけた器づくりも。

    「燃やして灰にしたら、すべて土に還せる器です。この器に、革と同じところで獲れたお肉を盛りつけたりしたら、最高だなと思います」

    画像: 「皮は本当に土に還るのかの実験」としてつくったという植木鉢。変化はごくゆっくりとしていて、10年ものの鉢もあるそう

    「皮は本当に土に還るのかの実験」としてつくったという植木鉢。変化はごくゆっくりとしていて、10年ものの鉢もあるそう

    天然のものにしかない魅力を引き出し、伝える

    野生であるがゆえに個体差が大きく、穴も傷も残るジビエ革は、海外では革らしい革として好まれる一方、つるりと均質であることに重きをおく日本では、「それって不良品でしょう? という思考に陥りやすい」と髙見澤さん。

    「でも、農作物だって規格外のものにこそ力があるように、天然のものにしかない魅力ってすごく大きい。僕の役目は、それを引き出し、伝えること。あちこちでイベントをさせてもらっているのもそのためです。

    なじみの方以外にも、知っていただく機会をつくりたい。すると、何かのきっかけで結びつくはずなんです。たとえば、農家さんから取り寄せをして、いびつな野菜に出合ったときなどにも」

    いつでも、何でも、安定して手に入れられる環境に疑問を抱くすき間のない都会暮らしでは、「ものや命のつながり、流れを感じづらい」という髙見澤さん。

    自身の手がける革製品は、きっと、手に取って使う人々に、その背景や、そこにあった命に思いを馳せさせる媒介となっているはずです。

    画像: 横向きに革を挟み込んで縫うイギリス製ミシン。「2mmと2mmの縫いしろを合わせて“4(し)あわせ”」が髙見澤さんのこだわり

    横向きに革を挟み込んで縫うイギリス製ミシン。「2mmと2mmの縫いしろを合わせて“4(し)あわせ”」が髙見澤さんのこだわり


    〈撮影/小禄慎一郎 取材・文/保田さえ子〉

    髙見澤 篤(たかみさわ・あつし)
    Six coup de foudre(シス・クー・ド・フードル)代表。仏語で「第六感でひと目ぼれ」を表すブランド名には、「死す・食う・フード」、つまり肉を食べたあとの副産物を大事に使う、の意も。

    と革
    東京都台東区松が谷2-29-8 ベビーマンション105号
    営業時間:平日10:00~17:00
    ㊡水・木・金曜
    http://to-kawa.com
    ※営業時間、休みは変更になる場合があります。

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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