90歳を迎えたいまも、古い団地でひとり暮らしを機嫌よく楽しんでいる多良美智子さん。高い理想は持たず、できることを楽しむ。最新エッセイ『90年、無理をしない生き方』(すばる舎)より、身の丈に合った小さな幸せをみつける秘訣を教えていただきました。
高い理想は抱かない。欲ばらなければ人生は楽しいです
私は商家に生まれ育ちました。
父が果物の卸や貿易の会社を営んでいました。商売がうまくいっていたときはよかったのですが、途中から傾き始め、暮らし向きもどんどん厳しくなりました。最終的に、知人の借金の保証倒れで父の会社は倒産してしまいました。家も売り払い、借家暮らしになります。
私は8人きょうだいの7番目で、上には姉が5人いました。しっかり者の3番目の姉から「みっちゃん、安定しているサラリーマンと結婚したほうがいいよ」と、子どもの頃から言われていました。
商売人の子どもは親と同じように夢を見るタイプもいますが、わが家は逆でした。商売の浮き沈みを経験したので、「大きな夢を見ずに堅実に」と考えました。
だから、結婚してからも大きな夢は持たず、ただ「家族がくつろげる、あたたかい家にする」ことだけが目標でした。

夫の仕事で神奈川県に引っ越すことになり、今の団地に住み始めたのは58年前。当時は今よりも、いずれは一軒家に住みたいと、誰もが夢見る時代でした。
でも、私は大きなローンを抱える家は、足かせになると考えました。元々、家族の顔が見える小さい家が好きだったので、「団地のままでいいんじゃない」と。借金のこわさは、実家の商売でよくわかっていました。
50㎡ほどのこの部屋で、最初は家族5人で生活していました。子どもたちがひとり、またひとりと独立していき、10年前には夫が先立ちましたが、私は今もこうして同じ場所に暮らし続けています。
狭くて古いけれど、家族の思い出がたくさん詰まったわが家。自分なりに居心地よくしてきたので、私にとっては素敵な「お城」です。
大きな幸せを求めず、身の丈に合ったところで幸せを探す……。そんなふうに生きてきました。
何事においても、高い理想を持つことはありません。持てば、そこに到達できないことが苦しくなります。
「私に合うもの、私にできそうなものはこれだな」ということを選んで、それを大いに楽しむ。毎日を楽しい気持ちで過ごしたいのです。
欲ばらなければ、人生は楽しいです。大きな夢ではなく、できそうなことを目指すから、かなえられ、落ち込むこともあまりありません。楽しい90年の人生だったと思います。

本記事は『90年、無理をしない生き方』(すばる舎)からの抜粋です
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お元気シニアの代表・多良美智子さんの、いくつになっても機嫌よく過ごす秘訣
著書累計18万部! お元気シニアの代表、90歳を迎えた現在も、日々機嫌よく暮らす多良美智子さん。体の衰えはあるも「当たり前のこと、しかたない」と淡々と受け入れ、愚痴をこぼさない。それは昨日今日始まったことではなく、これまでずっと続けてきた「無理をしない」生き方の集大成。高い理想は持たず、できることを楽しむ。大きな幸せを求めず、1日の中に小さな幸せをたくさん見つける――。そんな、地に足のついたこれまでの人生を、思い出とともに振り返ります。
戦争の語り部として、長崎の被爆体験も。巻末では大人気シニアブロガー・ショコラさんと対談、老後生活の楽しい過ごし方を語り合います。
多良美智子(たら・みちこ)
昭和9年(1934年)長崎生まれ。8人きょうだいの7番目。戦死した長兄以外はみな姉妹。小学生のとき戦争を体験、被爆する。戦後すぐに母を亡くし、父や姉たちに育てられる。27歳で結婚後、神奈川県の現在の団地に。10年前に夫を見送り、以来ひとり暮らし。
2020年に当時中学生だった孫と始めたYouTube「Earthおばあちゃんねる」では、日々の暮らしや料理をアップし、登録者数16万人を超える大人気チャンネルに。お元気シニアの代表として、多くの同世代や後輩世代に支持されている。90歳となった今も、体の衰えを感じつつ「それはそれ」と受け入れ、日々ひとり暮らしを満喫している。
累計18万部の著書に『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』『88歳ひとり暮らしの 元気をつくる台所』(すばる舎)。
Earthおばあちゃんねる