子猫が生まれる季節です
春。どんどん子猫が生まれる季節になりました。
そんな矢先に話していたら、私の友人が初めて子猫ちゃんを迎えることになったとか。
友人のお知り合いの方のおうちで飼い猫が子どもを産み、「こんなには飼えないから」と里親さんを探していたそうです。
今の時代、家の猫に子どもを産ませるというのが珍しく感じたのですが、その子は純血種。ご家族にもいろいろとお気持ちはあるのだろうと納得しましたが、念のため、友人には「時期が来たら、かわいそうだけど、避妊去勢はしてあげてね」と伝えました。
ところが、友人は、そんなことはまったく考えていなかった様子。
驚いて、「うちは1匹だし、男の子だから、しなくて大丈夫だよ」という返事が返ってきました。
初めて猫を飼う方へ伝えたい、避妊去勢の大切さ
なるほど。
猫と暮らすことが当たり前になっていると、避妊去勢の重要性は理解してきますが、初めての猫との生活だと、その部分も知らなくて当然。
私と、その場にいた猫と暮らす他の友人二人で、「猫にも人にもストレスがかかるから」「病気の予防にもなるから」と必死で説得しました。
とはいえ、私もこれまで家の子たちを避妊去勢してきましたが、毎回、胸が痛みます。
病気でもないのに、まだ小さなうちに体にメスを入れるという「自然ではないこと」。
きっと、すごく怖いでしょうし、そのときの猫たちの不安を考えると、何度行っても、当日は生きた心地がせず、涙を流すこともあります。
これはきっと、私より手術経験のある愛護団体さんでも同じなはずです。
避妊去勢手術を平然とできる人なんていないのではないでしょうか。

猫のストレスと病気予防。ほかにも脱走防止にも
それでも、そうすることはこんな「安心できること」があります。
・女の子なら乳がんの予防になるし、子宮や卵巣の病気のリスクも減る
・男の子ならスプレー行為(あちこちにおしっこをする)を防げる
・発情ゆえの脱走などを防げる
・発情中の鳴き声による、家族のストレスもなくなる
そして……
一番思うのは、猫自身の「子孫を残したい」という本能に振り回される苦しみをほどけることだと思います。
よく「発情中はうるさいけど、発情期が過ぎればなんてことないから」と聞きますが、じゃあ、発情中、猫はどれだけ苦しいでしょう?

本能。言うなれば、すごくお腹がすいているのに食べられない状態。寝たいのに眠れない状態。それを手術をしないことで、大切な猫に味わわせなければならないのです。
我が家の猫たちは皆、早いうちに手術済みですが、中には去勢されているのに、他の猫に交尾のようなしぐさを取る子がいます。それほどまでに本能は根強い。
手術をしなければ、どれほどその衝動に苦しめられるのでしょう。
子猫はとってもかわいいです。
かなうなら、自然のままに、猫たちも子どもを産んでほしいとも思います。

でも、私たちにはしあわせにできる限度があります。
避妊去勢は本当に心が張り裂けそうになるけれど……。猫たちがたっぷり愛情を注いでもらえる余裕の中で生きられるように、その必要性を胸にとめてもらえたらなと祈ります。

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」