レンタルというあたらしい方法
「この部屋にいいと思います」
幾度となくそう言われたのは、お掃除ロボットです。物が少なく、間取りもシンプルでコンパクト。ねこがいるので日に何度も掃除をする。確かにお掃除ロボット向きの住まいです。

でも──。なんとなく「掃除は自分で」という気持ちが拭いきれませんでした。掃除が比較的すきということと、そもそも、お掃除ロボットが思うようにきれいにしてくれると思っていなかったのです。
そんな時、家電製品のレンタルがあることを知りました。1カ月単位で借りることができ、そのまま継続して使うことも返却することもできるというものです。
いまは、ありとあらゆる物がレンタルできるのですね。
もちろん、お掃除ロボットもレンタル可能。新品かユーズドか選択でき、手続きも簡単。
そこで「お試し」として、お掃除ロボットをレンタルすることにしました。
それまでは、家電製品を買う場合はまずお店へ出向き、デザインや色を確認した上で購入するようにしていました。インターネットの画像だけではわからない点があり、実物を見ないで購入して届いた際「ここが──」ということが何度かあったからです。
けれど、レンタルだったら違和感があれば返却すればいいだけです。
選んだのは、機能も形もシンプルな白のお掃除ロボットでした。
お掃除ロボットを使うに当たり心配だったのは、ねこの反応でした。
ねこは最初「何ですか。これは」と思った通りの反応でしたが、1週間もしないうちに「気に入らないけれど気にしない」というねこらしい態度に落ち着きました。
いまではお掃除ロボットが動いていても椅子の上ですやすや寝ています。

実際の使い心地はどうか、というと、とても気に入っています。便利です。
音は思っていたより大きく、時々、謎めいた動きをしますが、「レンタルしてよかった」と思います。
それでも、掃除はお掃除ロボットだけにまかせてはおらず、やはり、細かな部分はやり残しがあるため、お掃除ロボットを使ったあと「気になるところを掃除する」という方法をとっています。
また、一日のなかで、ねこの毛が気になる時などは、昼夜問わずお掃除ロボットに登場してもらいます。関係としては「手伝ってもらっている」でしょうか。
体調をくずすと日々のルーティーンができなくなります。掃除、洗濯、買い物。そんな時、掃除だけでも自分の代わりにやってくれるだけで助かります。
「そういうことは自分で」と思ってきたことも、これからは色々、お願いしてもいいのでしょうね。
迷っている時は「まずレンタル」です。
本記事は、『60歳からあたらしい私」(扶桑社)からの抜粋です。
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“60歳はあたらしいスタートラインを引き直す時”
『天然生活』『天然生活web』で人気のエッセイスト広瀬裕子さんの新刊が発売になります。50歳、55歳と年齢をテーマに執筆してきた著者が、60歳を迎えるまでの日々に考え、選択し、アップロードしている暮らしの知恵を1編ずつ丁寧に書き下ろしました。「抗うことなく、あきらめることなく、自分に合った選択をしていく。気持ちのこと、身体のこと、家族のこと。いままでのことを振り返りながら、60代のために新しいスタートラインを『引き直したい』と思うようになりました」と広瀬さんは語ります。60歳はあたらしいスタートラインととらえ、これからの生活小さな暮らし、グレイヘア、家族の看取りなどをていねいに一編一編綴ったエッセイ集です。
<撮影/加藤新作>
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19