(別冊天然生活『飛田和緒さんの四季を味わうごはんと暮らし』より)
家事が楽しくなる道具
仕事柄、国内外問わず多くの台所道具を使いこなしてきた飛田さんですが、やはり手になじむのは日本生まれのものだそう。たとえばずっと使い続けている行平鍋。
「日本の家庭料理は、煮たりゆでたりの作業が多いので、お鍋もある程度の数が必要になります。一般的なお鍋だと収納に頭を悩ませるけれど、入れ子状に重ねられる行平鍋なら、たくさん持てます。多くの鍋を、家庭でも無理なく持てること。それが結局、私の料理と暮らし方に合うということなのでしょう」
葉ものをさっとゆがく。根菜を下ゆでする。下ごしらえした素材を煮込んで味をふくませる。ていねいな手順を重ね、完成する料理の数々。鍋は、コンロとシンクを行ったり来たりします。
「とくに仕事のときは大量の料理をつくりますから、重たい鍋ではとても大変。軽いアルミ製だからこそ、苦もなくできるんですよね」
ちなみにこの鍋、ときにボウルとしても活躍します。
「道具ってね、使っているうちに、ふと違う使い方になるときがあるんですよ。手に入れたときに、『こんなふうにも、あんなふうにも使えそう』なんて考えていなくても、本当にパッと無意識に、お箸を逆さにして麺をさばいていたりね」
料理以外の道具も気づけば日本のものがあちこちに。これらのいくつかは用途を絞らず、軽快なアイデアで使いこなしています。
シンプルな物干しは、“干す”という意味では野菜も同じだから、干し野菜づくりにも活用されます。
道具とは、手になじめばなじむほど、家事をより快適に、楽しいものに変えるヒントを与えてくれるのです。
「お気に入りの道具をこれまでいろいろな機会に紹介してきましたが、必ずしもすべてがみなさんにとってのベストではないんです。私自身の暮らしにはこれが合っているというだけなんですね。道具は手に入れたなら、しまい込まずにどんどん使って。そうすることで、あらためてその道具の優秀さに気づけるし、思いもかけない新たな使い方を発見できることが多いです。ベストな道具は、人それぞれ。ぜひ、あなたに合うものを見つけてください」
“私の暮らし”に合うものを探して
ころも箸で麺をゆがく

太さがあるころも箸の頭の部分を使ったら、麺をつかむのにぴったり
菜箸や盛りつけ箸として愛用しているのは、市原平兵衞商店の箸。
「一般的なものより先が細く、豆やせん切りの野菜などもスッとつかめます」
天ぷらの衣を混ぜるためのころも箸は、ある日、別の使い方がひらめきました。
「麺を引き上げたりするには、太いほうがつかみやすいんです。ふと上下を持ち替えたら、ちょうどよくて」

菜箸や盛りつけ箸の頭は、辛子などをぬりつけるのに便利な形状
刃あたりがやさしいまな板で切る

心地よく切るためには、包丁だけでなく、まな板選びも大切です。長年愛用しているのは朴(ほお)の木を使ったものですが、最近は違う素材も仲間入り。
「プラスチック製などの硬すぎるまな板は、手が疲れるうえに包丁の刃を傷めてしまうので避けていたんですが、『釜浅』のまな板は例外。刃あたりがやさしく切りやすいのに驚きました」
素材はほどよい弾力のある酢酸ビニル。
「色が黒なので、食材が見えやすいのもいいんです」

「釜浅」のものは重さがあるので、浅漬けの重しとしても活用できる

包丁にやさしいまな板 黒 小 30×20cm 5,720円/釜浅商店
折りたたみ物干しに野菜を干す

料理の仕事ではリネン類の洗濯が多くなるもの。こちらの物干しは、見た目以上に干せるので大助かり。デザインも部屋に出したままでも美しい
ある雑貨屋さんで出合った折りたたみ式の物干し。衣類やふきんだけでなく、盆ざるで野菜も干しています。
「一度に食べきれないほどの野菜をいただいたときは、適当な大きさにカットしてこちらへ。干し時間も大きさもその日の気分です。干すことでキュッと小さくなり、食感も変わって、楽しくたっぷり食べられますよ」
小さめに開けば上にざるも置けるので、干し野菜づくりにも活躍

木製物干し 幅80×奥行14.5〜87×高さ122cm オーダー品
小さなほうきで食卓をはく

朝食にパンを食べたとき、どうしても散らばってしまう細かなパンくず。濡れたふきんでふくよりも、小さなほうきでサッと集めるほうが断然効率がいい
「たしか、京都に取材へ行ったときに和雑貨を扱うお店で買ったもので、10年以上は使っていると思います。シンプルなデザインで、持ち手まで自然素材なところもお気に入りのポイントです」
サイズ感も絶妙で、とても使いやすいそう。
シュロの繊維が密なので、さっとひと掃きで、細かなごみを気持ちよく集められます。

仕事場でもある台所には、長年使い続けている日本の道具がたくさん。「アシスタントさんも来るので、道具は多いほうかも」

ほうき 長さ27cm
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飛田和緒さんの、健やかに日々を送るためのごはんと暮らしの知恵をご紹介。
季節の食材を使った保存食からお弁当まで、知恵がつまった一冊をお楽しみください。飛田さんがずっと伝えてきたのはいつものごはんと暮らし。そのときどきに「これが一番」と気に入ってつくったものばかりです。加えて最近の雑感や、いま私の料理に欠かせない道具、近ごろお気に入りの調味料などについて、新たにお伝えしています。このなかからひとつでもお気に入りが見つかったら、ぜひ繰り返しつくり、手になじませて、あなたの味にしてみてください。
<撮影/山田耕司 取材・文/玉木美企子>
飛田和緒(ひだ・かずを)
東京に生まれ、高校3年間を長野ですごす。結婚後に料理家としてデビュー。身近な食材で手軽につくれるレシピが幅広い年代の支持を集め、出版した書籍は100冊以上にのぼる。神奈川県の海辺の街に暮らし、娘の進学とともに現在は夫とのふたり暮らし。日々の食卓を記録したSNS「#ひとりごはんときどきふたり」も注目を集めている。著書に『おいしい朝の記憶』『くりかえし料理』(ともに扶桑社)など。インスタグラム:@hida_kazuo
※記事中の情報は、別冊天然生活『飛田和緒さんの四季を味わうごはんと暮らし』掲載時のものです