楽しみな夜の晩酌。ある日の献立
夜。日常のあれこれが終わってから、ゆるゆると晩酌をするのが私の癒しです。
おつまみは簡単なものしか作りません。
今の季節は新じゃがをふかして、その上に酒盗をちょこんとのせオリーブオイルをかけたり(これは冷酒でキュッと)、クラッカーに薄くスライスしたブリーチーズとリンゴ。アーモンドダイスを散らしてハチミツをかけたり(これは白ワインでふんわりと)……。
いつも「お財布に優しい晩酌タイム」を楽しんでいるのですが、ある日のこと。産直の魚屋さんでお安く鰹のたたきが買え、うきうきしながら、ちょっと贅沢な晩酌タイムが始まりました。

最初は、ポン酢だけの味で楽しんでいた鰹。ところがお酒がすすむにつれ、だんだん刺激が欲しくなり、ニンニクをこってりのせ、「キクー!」と言いながらパクパク味わっていました。
夫はニンニクはそんなに好きじゃない人。私だけがかぐわしいにおいを放ちながら、お酒もまわり、さあ就寝へ。
思わぬことが原因で、猫たちに異変が
ところが、その日はなんだかおかしい。
いつもは、猫たちがこぞって集まってくるベッドに、誰ひとり来ないのです。
それどころか、一階にある寝室を避けるように、誰もが二階へ行ってしまいました。
「セリがニンニク臭いんやって」と夫が冗談めかして言いますが、私はほろ酔い。
「何言ってんねーん。そんなことくらいで、うちの子たちが私と寝たがらへんわけないやんー」と、夢の中へといざなわれていきました。
次の瞬間です。
二階でドタドタと猫たちが走り回る音が響きます。
そのうえ、これまた誰か猫の怒るような声。
「何何?」と慌てて夫が身を起こします。私はもう半眠り。心配になった夫が二階に上がっていく足音を聞きながら、眠りにつきました。

翌朝、夫から猫のケンカの話を聞いて
そして翌朝。話を聞くと、どうやら昨夜の怒るような声は、猫同士のケンカだったそう。
しかも、我が家で一番穏やかで、どんなときも誰に対しても温厚な、仏の生まれ変わりじゃないかとまで言われる「でかお」が他の子を追いかけていたのだといいます。
「あのでかおが!?」

こちらが仏の「でかお」
驚く私に、夫は「やっぱり、セリのニンニクが臭かったせいやで」と。
さすがに私は笑います。
「いくらニンニク臭くても、それでケンカをするほどって、どれほどやねん」
そう突っ込むのですが、夫は譲りません。
「だって、俺も寝られへんくらい臭かったもん。猫だってキレるわ」
そこまで言われると一抹の不安がよぎります。
私は、まさかね、と思いながら、「猫 ニンニク 臭い」と検索をかけました。
猫は強い匂いがするものが苦手
すると……びっくりする事実が分かったのです。
なんと、夫の言うとおり猫はニンニクのにおいが大嫌いとのこと。もともと狩りをする動物である猫にとって、強いにおいは狩りの邪魔になるため、本能的に嫌なのだそうです。
中には、そのにおいのせいで、気性が荒くなったりする場合もあるのだとか……。
猫にニンニクを食べさせてはいけないことはもちろん知っていましたが、まさかにおいだけでもそんなにストレスを与えていたなんて……。大反省です。
他にも猫は、柑橘類やハーブのにおいが苦手で、お酢やカレーなどの香辛料のにおいも好まないと分かりました。
料理が趣味で、ついエスニックなものにも手を出す私ですが、「猫に食べさせなければ大丈夫」という感覚は捨て、においもしっかり気にしなきゃなと胸に刻みます。
大好きな夜の晩酌はなかなかやめられません。
でもこれからは、においのしないあっさりしたものにして、人と会っても「うっ」と鼻をつままれない、「臭くない生活」をしていこうと決めたのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」