• 風を通す、水をまく、しつらいを変える。エアコンの設定温度を下げなくても、涼しくなる方法はいろいろとありそうです。今回は、竹清堂の田中亜希子さんに、八ヶ岳の茅葺屋根の家での暮らしと、涼やかな空間の工夫について教えていただきました。
    (『天然生活』2024年8月号掲載)

    竹かごとみずみずしい草花が放つ清涼な空気感

    竹工芸の工房兼ギャラリー「竹清堂」があるのは、八ヶ岳山麓の町。標高700mの山地帯で、避暑に訪れる人も多いエリアです。

    画像: 元は別の方が営んでいたギャラリーを数年前に譲り受けた。夏の営業日には打ち水をしてお客さまを迎える

    元は別の方が営んでいたギャラリーを数年前に譲り受けた。夏の営業日には打ち水をしてお客さまを迎える

    「甲府の盆地も近いし、真夏はそれなりに暑い。とくにここ数年は猛暑続きで、この辺のお宅でエアコンを取り付けたという話もちらほら。でも、うちはエアコンなしで過ごせています」

    そう話すのは、挿花家の田中亜希子さん。3年前、竹工芸家の夫・茂樹さんと東京から移り住んできました。

    画像: 眼下には森が広がり、絶好なロケーションのテラス。夫妻でお茶を飲み休憩中

    眼下には森が広がり、絶好なロケーションのテラス。夫妻でお茶を飲み休憩中

    「標高が高いからその分、太陽の光が強く、やっぱり外は暑くなります。でもこの家の中は涼しいんです」と、茂樹さんも続けます。

    その秘密は茅葺の屋根にありました。茅は空気を多く含んだ素材で、断熱性があり、湿度調整力も高いのが特徴。

    画像: 茅葺屋根は内部も美しい

    茅葺屋根は内部も美しい

    茅と茅の間にはすき間があいていて、そこから少し風が入り、熱がこもらないというのも夏の涼しさにひと役買っています。住んでみてわかる、茅葺屋根のすごさ。

    田中さん夫妻は、「すっぽり自然素材に包まれている」心地よさを折りに触れて実感するのだそう。家自体が呼吸しているように思え、それはまるで「生き物の中で暮らしているかのような感覚」だと、たたえます。

    さて、もうひとつ「涼やかさ」を印象づけているのが、茂樹さん、そして3代目の両親がつくる竹細工作品です。

    軽くしなやかで風通しのよい素材、適度な余白を含んだ繊細な編み目、自然素材ならではの清らかさは、目にも触った感触も涼しげ。ガラスや麻など夏らしいものたちとの相性は抜群。

    画像: 「竹清堂」は100年以上前に創業した老舗で、茂樹さんは4代目。創作のかごを中心に、オーダー品も手掛ける

    「竹清堂」は100年以上前に創業した老舗で、茂樹さんは4代目。創作のかごを中心に、オーダー品も手掛ける

    夏にこそ、そのすっきりとした美しさが際立つというもの。ざるを皿代わりに使ったり、リネンのシャツに竹かごのポーチを合わせたり、亜希子さんも「夏ならでは」の使い方を存分に楽しんでいます。

    そして、茂樹さんとご両親の竹の作品に、亜希子さんの生けた山野草が見事に寄り添っているのも、一家だからこそ生み出せる景色。紫や青のみずみずしい花、生命力にあふれた葉、自由に動く茎......。それらがキリッと端正な花かごと調和し、空間はさわやかに整っているのです。

    画像: 住居スペースの窓の外には勢いのある木々が迫り、葉の緑がまぶしい

    住居スペースの窓の外には勢いのある木々が迫り、葉の緑がまぶしい

    画像: 看板は、義弟で鉄の工芸家・田中潤さん作。大谷石を使った元のギャラリーの看板にステンレスの組み合わせ

    看板は、義弟で鉄の工芸家・田中潤さん作。大谷石を使った元のギャラリーの看板にステンレスの組み合わせ

    さあ竹かごに花を生け、玄関に打ち水をしたら準備完了。

    「竹清堂」のオープンです。



    <撮影/柳原久子 構成・文/鈴木麻子>

    田中亜希子(たなか・あきこ)
    挿花家・谷匡子さんに師事した後独立。「竹清堂」の4代目・田中茂樹さんと結婚し、2021年に山梨県北杜市に移住。「花竹清堂」として、山野草や野の花中心の生け込み、季節の花のお届け、花の教室「四季を活ける会」を行う。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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