(『天然生活』2021年12月号掲載)
中野さんの歳を重ねる楽しみ01
子どもの時代の復習
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

「お習字」は苦手だった。筆圧が強いので筆の先が割れてしまい、キレイな線が書けなかったからだと思う。大人になってから、フト、そのことに気づいた。にわかに「お習字」をしてみたくなった。墨をするだけで、その香りに気持ちが落ちつく。姿勢も、自然とよくなるような。
難しく考えず、たとえば、その日の記録――超簡単な日記のように「おだやか」だの「激怒」だの「さざんか咲く」だの……書いてみるのもいいかも。
「お絵描き」のほうが得意な人は、庭に咲いた花だの愛犬の寝姿だの、描きとめておいたら……できれば、短いコメントもつけて。
中野さんの歳を重ねる楽しみ02
きもの

母や祖母が残したきもの。もったいなくて処分できず、実際に着ることもない――という人は多いのでは?
頑張って(!?)ぜひ着るようにしましょう。今のうちですよ! 寝たきりになってでは、もう遅い。着物が億劫だという人は、まずはユカタから。
きものは、やっぱり、日本人の体型にぴったり。大抵の人が似合うのも嬉しいところ。考えてみればその昔、ハワイに移住した日本人たちは、古いきものをアロハシャツに仕立てて着たりしていたんですよね……。
中野さんの歳を重ねる楽しみ03
思い出の人たち

そこそこ長くなった人生の中で、記憶に残る人たちがいる。そういう懐かしい人たちの名前を書きとめておいたほうがいいのでは? と考えるようになった。愛と、感謝と、懐かしさをこめて。ボケはじめてでは遅いから。
いつ頃、どういう形で出会ったのか。どんな個性の持ち主だったのか? どんな顔立ちで、どんな話し方だったのか? どんな影響を受けたのか?……など、書きとめておきたいと思う。
中野さんの歳を重ねる楽しみ04
花と緑

私なんかが言うまでもなく、花や緑は心をおだやかに、なおかつ、はなやかにしてくれる。せっかくだから、花瓶や花器とのコーディネートも、おおいに工夫してみたいと思っている。
ケチなのかもしれないけれど、私はしおれてきた花の中でも、まだ元気のある花は、すぐには捨てられない。小さなコップ状のものにさして、竹細工の深めのザルでカバーして、できるだけ長く楽しんでいる。近くの花屋さんと顔なじみになっているから、アドバイスを聞くのも楽しい。
中野さんの歳を重ねる楽しみ05
ファミリーヒストリー

両親や先祖が残した日記や家系図など、しまいっぱなしにしないで、ぜひ、読んでみて。ごく普通の家庭でも、案外、大きな歴史的事件やものごとに、関わっていることがあるものだから。
とりわけ、残しておきたいのは第二次世界大戦に関すること。また、祖父母や父母の日記や、ちょっとした書き付けなど、「エーッ、そうだったの⁉」とあらためて驚くこともあって(他人から見たらともかく、身内だと興味深い)、うかつには捨てられないもの。
もちろん、自分たちの記録も、できれば、文章化したほうがいいと思う。いつの日か、子どもや孫が、読んでくれるかもしれないから。
中野さんの歳を重ねる楽しみ06
ひとり喫茶

私は喫茶店好き。自宅でも朝・昼・晩とコーヒーをいれて飲んでいるというのに、街の喫茶店に、ついつい吸い込まれてしまう。コーヒーを飲んでユッタリするばかりではなく、店の雰囲気や客たちの様子なども、味わっているかのよう。
体質的にお酒が呑めないので、ひとりでバーに寄ることはなし。好きなのは、今どきのカフェではなく、昔ながらの喫茶店。ひとり暮らしだというのに、「ひとり」を楽しみ、味わいたい……我ながら、ちょっとヘン!?
〈イラスト/中野 翠 取材・文/福山雅美〉
中野 翠(なかの・みどり)
コラムニスト。1946年生まれ。埼玉県浦和市(現・さいたま市)出身。早稲田大学政治経済学部卒業。出版社勤務などを経て、文筆業に。『あのころ、早稲田で』(文春文庫)、『いくつになっても』(文藝春秋)、『コラムニストになりたかった』(新潮社)、『いいかげん、馬鹿』(毎日新聞出版)など著書多数。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです