(『天然生活』2024年9月号掲載)
味わう人々の顔ぶれで“今日の器”は決まります
友人と食事会を催すことが多い冷水希三子さん。
器選びは、料理に合わせて......ばかりではありません。
「その日のゲストに合わせて器を選んでいますね。民藝好きが集まるなら、それが中心になるし、凛とした器が合いそうなメンバーなら、喜んでくれそうな器を手持ちの中から選びます。器と人と、料理と。そのバランスを考えるのもまた、ともに食事をする楽しみで」
新たな器を迎え入れるとき、“料理が映えそう”という視点は忘れているといいます。
見ているのは、ものとしての美しさだけ。
「薄手で普段使いには緊張するようなものもあるけれど、それはそれで背筋がスッと伸びるようで、やはり魅力には抗えないんです」
冷水さん愛用の“日本の器”たち

上)塚崎愛さんの白大皿/直径22×高さ5cm、左)藤本健さんの黒鉢/直径21×高さ7cm、下)中本純也さんの取り分け皿/直径22×高さ5cm
塚崎愛さんの白大皿
バランスのよい貫入が美しい器。
「白だけれど無機質にならない、独特の表情。立ち上がりがあり、料理も盛りやすいです」
藤本健さんの黒鉢
木の個性を最大限に生かした作品。
「無骨でありながら、漂う繊細さ。何を盛っても受け止める、懐深さを感じます」
中本純也さんの取り分け皿
おもてなしにも普段使いにも。
「磁器だけれど、土っぽさも感じる質感。地元の杉を使い、薪窯で焼かれている器です」

山田隆太郎さんの茶壺
直径8×高さ11cm
薪窯、灯油窯、ガス窯をイメージに合わせて使い分け、粉引、刷毛目、黒釉とその作品が多彩であることでも知られる。
「山田さんは王道の人。信頼できる器をつくってくれる人、なんです」
タナカシゲオさんの小皿
直径7.5×高さ2.5cm
「私は李朝の器が好きなんですが、タナカさんの作品には、その佇まいを感じます」
李朝のほか、桃山茶陶など古い時代の茶器からインスピレーションを受けた作品を多く手がける。
寒川義雄さんの杯
香りの余韻も楽しめる器です。直径3.5×高さ6.8cm
「寒川さんの作品は、電気窯だとスッとした印象ですが、こちらは年に数回焼く薪窯によるもの。おおらかな雰囲気が素敵」
中国茶の香りを楽しむ“聞香杯(もんこうはい)”として。
大谷哲也さんの急須
直径9×高さ10cm
さらりとした肌触りは、土っぽい質感が好きな冷水さんの持つ器としては異色。
「それでも不思議とひかれるのが、器との出合いの面白さ。こちらの注ぎ口は大谷さんらしい細やかさ」
<撮影/有賀傑 取材・文/福山雅美>
冷水希三子(ひやみず・きみこ)
奈良県出身。レストランやカフェ、料理旅館での勤務を経て独立。季節の食材の味わいを最大限に引き出した、やさしくシンプルなレシピで人気を集める。料理にまつわるコーディネート、スタイリング、レシピ制作を中心に、書籍、雑誌、広告など多岐にわたって活躍。インスタグラム@kincocyan
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです