• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。猫をお風呂に入れる方法。

    猫のお風呂、皆さんはどうしていますか?

    夏の終わりのある午後。我が家の10歳のお姫様猫「こころ」が、またやってくれました。

    そう。キッチンのシンクでの粗相。

    それ自体は諦めているのですが、足までおしっこでぐっしょり。仕方なく、お風呂に入れることを決意しました。

    こころはお姫様気質。嫌なことは嫌!と全力で抵抗し、水に濡れるたびにバタバタと跳ねまわります。まるで自宅の浴室がサーカス会場になったよう。

    画像: お風呂上がりの不機嫌な「こころ」

    お風呂上がりの不機嫌な「こころ」

    遠くから他の猫たちは、それぞれの反応を見せています。

    たとえば、お風呂を知らない若い子たちは、異変を感じ取りソファの下に潜り込んでハラハラ。なんだか嫌な予感を思い出す子は、物陰に隠れてイカ耳に。誰もが「いつもとは違う」戸惑いを見せているのです。

    画像: お風呂ってこわい!と怯える若い猫たち

    お風呂ってこわい!と怯える若い猫たち

    もう20年以上前。私が猫と暮らし始めた頃は「猫は定期的にお風呂に入れるべき」と言われていました。

    多頭飼いの我が家では、風邪をひかせないよう、洗面所に簡易ヒーターを持ち込み、汗だくで頑張っていたものでした。

    だけど最近は、「猫は自分で体を舐めて清潔を保つので、頻繁にお風呂に入れる必要がない」ということが分かってきました。

    「なんだ、そうなのか」とほっとしつつ、それでもまれに訪れる「どうしてもお風呂に入れなければならない事態」には、猫の体と心の負担を最小限に抑えたいと意気込みます。

    お風呂嫌いな猫をやさしくお風呂に入れる方法

    私の経験から、おすすめの方法はこんな感じです。

    ・水温はぬるめに設定する

    ・きついシャワーを直接かけるのではなく、手桶やコップで少しずつお湯をかける

    ・顔はよほどでなければ「完璧に洗えなくてもいい」というくらいの気持ちで、目や耳に水が入らないよう、濡れた手で撫でるように洗う

    ・低刺激の猫用シャンプーを使う

    ・お風呂後はタオルで水けを取り、必要に応じてドライヤーはするものの、なるべく弱めで音をたてない

    お風呂の最中は、猫がどれだけ暴れて爪をたてても、怒らず、優しい声掛けを忘れないこと。終わったら、安心できる居場所に戻してあげること。

    そうすることで、猫はお風呂を「嫌な体験」から「なんとか乗り越えた特別なイベント」に変えてくれるのです。

    画像: 安心できる場所でやさしくタオルドライ

    安心できる場所でやさしくタオルドライ

    お風呂でなくても清潔にできる方法も

    そんな私は、最近はお風呂の代わりにブラッシングや、ホットタオル(タオルを濡らして絞り、電子レンジでほかほかにしたもの)で顔や足、背中を拭き、毛づくろいの補助としています。

    特に夏は、暑さで猫たちがストレスを抱えやすいので、体をきれいにしたり、涼しい場所を作ったり、水分補給に気をつけたり……。

    夏の猫ケアは「清潔」「快適」「心の安心」。この3つを守ることで、猫たちとの信頼関係も深まりまると痛感します。

    お風呂に入れることに迷ったら、まずはブラッシングやホットタオルで様子を見る。

    そして、もし小さな勇気を出してお風呂に入れてあげるときも、猫の体も心もびっくりしないよう、そっと寄り添う。

    浴室でバタバタと暴れるこころの小さな手足や、ドキドキした瞳を見ながら、私たち家族もそっと息を合わせる時間。

    そんな一瞬一瞬が、ただの清潔のための作業ではなく、猫と私の「絆の積み重ね」になっていることに気づきます。

    終わったあとのふわふわの背中や、落ちついたまなざしを見ていると、胸の奥はほわっと温かくなる……。

    そして、疲れたこころが、そっと体を寄せてきたり、眠そうにまどろんだりする瞬間、疲れも、夏の暑さも、全部吹き飛んだような優しい時間が流れるのです。

    小さな勇気と優しさで紡いだこのひとときが、猫にも、私にも、そっと心に残る「夏の終わりの思い出」となっていくのですね。

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: お風呂でなくても清潔にできる方法も

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

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