• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。猫にお薬を飲ませる時のこと。

    サプリやお薬を飲ませる難しさ

    年を重ねた猫と暮らしていると、日々手にすることがあります。

    それは、「正しさ」より「穏やかさ」が大切だという気づき。

    我が家の最年長16歳の「ウン」は関節炎の症状があり、毎日サプリを飲んでいます。

    とはいえ、我が家はもともと「猫にストレスをかけない」が家訓のような家。当然、薬を飲まされることにはまったく慣れていません。

    最初の頃は、まだよかったのです。ウンがぼんやりしている隙に、あれよあれよという間に服薬終了。「意外といけるね」などと、こちらも少し油断していました。

    ところがある日、ウンは気づいてしまったのです。

    ――あれ、これ、毎日じゃない?それからというもの、用意を始めただけで気配を察知。パッケージを開ける、あの「カサッ」という音が鳴った瞬間、姿を消します

    やがては、私が近づいただけで、さらには「サプリを飲ませる朝」という空気だけで、雲隠れするようになりました。

    これはいけない!

    私たちは、サプリ係を、私から夫に交代することにしたのです。

    普段はただただ優しい夫。まさかその人がそんなことをするとは思っていなかったのでしょう。ウンはしばらく、見事にだまされてくれました。

    サプリ係を交代。すると猫がさらに警戒して……

    ……が、事態は思わぬ方向へ。

    どうやらウンにとっては、「いつも優しい人に裏切られた」という気持ちが相当ショックだったようで、今度は私たちのそばにすら来なくなってしまいました。

    これは、完全にやりすぎでした。

    「ごめん、ごめんね、ウン!」と毎日謝り、途方に暮れる日々。

    その中で私も夫も腹をくくったのです。

    「ウンを傷つけるくらいなら、最悪、1日くらい飲ませられなくてもいいや」

    「朝とか夜とか、四角四面に義務付けるのはやめよう」と。

    きっちり投薬することにこだわらず、力を抜いて接してみると

    それからは、サプリは準備だけしておいて、たまたまウンが近くにいたら、さっと飲ませる。そして、終わったらすぐに口直しのちゅーる

    すると不思議なことが起きました。

    大好きなちゅーるが良かったのか、それとも私たちの肩の力が抜けたのが伝わったのか。最近では、なんとウンのほうからやって来るのです。

    「そろそろ、あれやる?」

    画像: いつもの場所で待つところ。うれしくてしっぽがくるんとしています

    いつもの場所で待つところ。うれしくてしっぽがくるんとしています

    そんな顔でちょこんと座り、サプリを飲み終えると次は当然のようにうきうきしながら待っています。

    ――ちゅーる、ですよね?

    その姿を見ていると、ああ、猫も人も、同じなのだなと思います。

    追われると逃げたくなる。でも、選ばせてもらえた気がすると、案外すんなり受け入れられる。

    今日もウンはサプリを飲んで、ちゅーるをもらって「まあ、悪くない日です」と言いたげなのどかな顔で、窓辺にいます。

    薬やサプリを飲ませる、ちいさな工夫

    ・「なるようになる!」で時間を決めすぎない
    朝・夜にこだわらず、「できたらラッキー」くらいの気持ちで。その気楽さが、人間もプレッシャーにならずに長続きします。

    ・気配は生活の中に消して
    準備は静かに……といってもなかなか難しいもの。そんなときは、あえて生活音にまぎれさせてしまいましょう。お湯を沸かしたり、水を出したり……。いつもの音で安心を提供します。

    ・ごほうびは即セットで
    飲んだらすぐ、楽しいことが待っている流れを作ります。おやつでも遊びでもOK。一番好きなことをしてもらえると覚えると、やがてその時間が楽しみになってくれますよ。

    ・完璧を目指さない
    1日ぐらい抜けても大丈夫、という余裕がいちばんの近道です。

    画像: ヒーターの上を分け合う猫たち

    ヒーターの上を分け合う猫たち

    人間のリラックスが、猫たちの心の安定につながります。

    ウンに教えられたのは、「何が何でも飲ませる」よりも、「一緒に折り合いをつける」ことでした。

    今日も我が家は、嫌なことにはご褒美を!の優しい循環で、のどかに自分にあまく、人も猫も暮らしています。

    画像: 至福のちゅーるタイム

    至福のちゅーるタイム

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    画像: 薬やサプリを飲ませる、ちいさな工夫

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

    ブログ「ちいさなチカラ」



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