• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。春を感じる猫との暮らし。

    人よりも早く春の訪れに気がつく猫たち

    窓を開けると、空気が少しだけ柔らかくなっているのがわかります。

    冬の冷たい匂いではなく、どこか湿り気を帯びた、土と光の混じった匂いです。

    その変化に、いちばん先に気づくのは、私ではありません。

    10匹の猫たちです。

    一斉に顔を上げ、鼻先をすっと伸ばします。まるで、目には見えない何かを迎えにいくように。

    画像: 日のあたるキャットタワーで昼寝するでかお

    日のあたるキャットタワーで昼寝するでかお

    16歳のウンとでかおは、ゆっくりと立ち上がります。若いころのように勢いよくは動きませんが、春の匂いには、きちんと挨拶をします。

    長く生きてきた分だけ、きっとこの匂いを何度も知っているはずです。

    保護してまだ2年半のヨナは、窓辺でいちばん嬉しそうな顔をしています。

    外の世界の記憶が、まだ体のどこかに残っているのでしょうか。風のなかに、何か懐かしいものを探しているようにも見えます。

    画像: お外がまだ気になる若いヨナ

    お外がまだ気になる若いヨナ

    春の空気を猫と一緒に胸いっぱいに吸い込む

    一軒家のわが家には、風の通り道があります。

    リビングにある吹き抜けの上、二階に続く廊下へ。

    春の空気は迷いなく入り込み、10匹分のひげをそっと揺らします。

    その光景を見ていると、思います。季節をいちばん早く知るのは、もしかしたら猫なのかもしれません。

    私はようやく、少し遅れて深呼吸をします。土の匂い、遠くの花の匂い、そして家の中に満ちる、猫たちのぬくもり。

    春は、外からやってくるだけではありません。10匹の鼻先を通って、わが家の中で、もう一度柔らかくなるのです。

    今年もまた、同じ匂いを一緒に吸い込めたことを、静かに、ありがたいと思います。

    画像: 兄弟仲良くひだまりを分け合う

    兄弟仲良くひだまりを分け合う

    猫と春を迎える小さなアドバイス

    ・換気は「短時間×回数多め」
    長時間開けっぱなしより、5〜10分を1日数回。花粉・虫の侵入を最小限にしつつ、空気の入れ替えができます。

    ・網戸チェックは春前に
    16歳のウンとでかおのようなシニアでも、春風でテンションが上がることがあります。網戸ロックや補強グッズで脱走対策を。

    ・玄関の「匂い持ち込み」対策
    靴裏の花粉や土は玄関マットで落とします。これで猫が床でごろごろしても安心。

    ・空気清浄機は「床近く」が効果的
    猫の生活圏は低い位置。吸入口が低いタイプや、床置きで毛+花粉を同時にケア。

    ・シニア猫の温度差ケア
    春は寒暖差が大きくなります。日向だけでなく、静かな暖かい寝床をもう一か所確保しましょう。

    ・新入りさんの安心ケア
    外の匂いで落ち着かない様子があれば、いつもの毛布や匂いのついた寝床を近くに置くと安心。

    画像: 床暖房から日向へ移動

    床暖房から日向へ移動

    春の匂いは、毎年同じようで、少しずつ違います。

    けれど、こうして10匹と一緒に鼻先を揺らせることは、当たり前ではないのだと知っています。

    風が通り抜けたあとの静かな部屋で、私はそっと思います。

    来年の春もまた、この匂いを、みんなで迎えられますように。

    画像: 16歳のウンはマイペース

    16歳のウンはマイペース

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    画像: 猫と春を迎える小さなアドバイス

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

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