(『天然生活』2025年6月号掲載)
障害福祉サービス事業所「領家グリーンゲイブルズ」
母屋からの短い渡り廊下を抜け、こぢんまりとしたコンテナハウスの扉を開けると、聞こえてくるのは、ザッ、ザッ、と釜の中で揺れ、焙煎されるコーヒー豆の音。
火力を調整し、所定の温度に釜が熱されるまでの十数分、障害福祉サービス事業所「領家(りょうけ)グリーンゲイブルズ」の4人の利用者は、バングラデシュからの短期研修生と職員も交え、釜の周りで和やかなおしゃべりに興じています。
自己紹介でもしましょうか、との職員の声を合図に、少し照れくさそうな様子で始まった利用者各々の語り。

領家グリーンゲイブルズ代表、加藤木貢児さん。この事業所を、人々が行き交うような開かれた場にしていきたいと語る
約10年前に視力を失ったという生田健人さんは、ここでは焙煎機の操作全般を担当。事業所の代表、加藤木貢児さんとは、ロックフェスに参加する仲間なのだとか。
弱視で、視野欠損もあるという花尾祐太さんは、タイマーを手に焙煎時間、温度の管理を担当。ときに仲間の語りがあらぬ方へそれると、クールな突っ込みを入れるのも花尾さんです。
左目のみ、わずかに見えるという菊地美穂さんは、職員から「何でもやるねー」と感心されるメンバー。この日は焙煎チームに加わりましたが、農業部門の活動日には、畑に出て農作業にもいそしみます。

熱される釜の中で焙煎が進むひと時。それぞれが役割を持ち、連携して作業を進行。花尾祐太さん(左)は、職員と声をかけ合い、時間と温度を全員に知らせる。生田健人さん(中)は、その声を頼りにしながら機械を動かす。鬼海翔太さん(右)は、豆の「はぜ音」に意識を集中させ、仕上がりのタイミングを計る
全盲の鬼海翔太さんが頼りにするのは、盲学校の寄宿舎に泊まっていた当時、複数の洗濯機を音で判別したという聴力。焙煎の時間と温度を知らせる仲間、職員の声を頼りに、このあと、釜の中で豆が「はぜる」音に耳をそばだてます。

焙煎機に豆をセットする菊地美穂さん。ドラム型の釜の予熱が完了したら、仕切りを開けて豆を投入する仕組み
釜の温度が上昇すると、すっと静まった室内に、「来たね!」と豆の「1はぜ」を知らせる声。じっと釜に耳を傾けてみると、確かにパチ、パチ、とはじけるような音が。その音がじきに消えると、時間の経過、温度を確認するやり取りのみが粛々と続きます。

大きな音を立てて釜から流れ出た、煎りたての豆
すると、先ほどよりもやや高く鋭角的な、ピチッ、ピチッ、という「2はぜ」の音が徐々に広がり、「もうちょっと、もうちょっと......いまです!」のかけ声と同時に、艶やかにローストされた豆がザーッと音をたて、釜から出されます。
すぐさま、うちわやドライヤーで風を当てながら、へらで大きく切り返し、粗熱が取れると、豆を広げたざるを両手で揺すり、チャフと呼ばれる薄皮の破片を取り除いて、計量へ......。
弛緩から緊張へと、瞬時に空気を変えて完遂する鮮やかさは、取材陣が思わずたじろぐほど。

焙煎した豆の試飲は、お客さんが受け取るのに近い状態を確認するため、焙煎直後ではなく、翌日に実施している
「焙煎を始めて5年ほどたって、俄然、楽しくなった。慣れて空間把握したのか何なのか......ドラムもそうだったな」と振り返る生田さんの言葉(生田さんはドラマー)や、鬼海さんが繰り返し語った「皆がいるからできる作業」との言葉は、一人ひとりの繊細な感覚、技術と、その連携の習熟を感じさせます。
<撮影/川村恵理 取材・文/保田さえ子>
領家グリーンゲイブルズ
2020年4月、埼玉県上尾市に開設された多機能型事業所(生活介護・就労継続支援B型事業)。盲学校の保護者有志の活動から始動した「認定NPO法人みのり」が運営。視覚やその他の障がいのある人たちによるコーヒー焙煎、点字打ち、農業生産などの作業や、盲重複障がいのある人たちを対象とした生活介護などを行う。
https://event.ageo-minori.or.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




