(『天然生活』2025年8月号掲載)
祖母から母、母から娘へ「関東在住アイヌ」の居場所づくりへの思い
「ハル・コㇿ」とは、アイヌの言葉で「食べ物(穀物)・持つ」を指し、「食べ物に困らないように」という願いが店名に込められています。

店にはさまざまなルーツをもつ人々が国内外から訪れ、文化交流の場になることも。
ハルコㇿの成り立ちには、関東在住アイヌの居場所づくりに奔走してきた祖母や母の思いがありました。
当時北海道にはアイヌの人たちが集える場所が各地にありましたが関東にはまだなく、1980年に「関東ウタリ会」が結成され、その会から「レラの会」が生まれます。
首都圏在住のアイヌ民族のグループで、歌や踊り、アイヌ民族の存在、文化、歴史を知らせる活動をしてきました。
その後90年代に入ると会の拠点としてアイヌ料理店をつくろうという活動に集約され、多くの人の努力と支援、募金活動を経て94年早稲田に、「レラ・チセ(風の家)」を開店するに至りました。食を提供するだけでなく、アイヌ文化に触れることができる場、またアイヌの人が働ける場として。

店内には木を削ってつくられる「イナウ」が飾られている。毎年6月、建物のカムイ(神)に感謝を捧げるカムイノミ(神への祈り)の儀式で使われるもの
タミエさんが関わっていたことで照代さんも後に店で働くことになります。しかし、2009年に閉店せざるを得なくなり、照代さんとタミエさんはその志を受け継ぎたいと借金をして11年にハルコㇿをオープンさせました。
みんなで一緒にごはんを食べて「何気ない会話」ができる場所に

ハスカップ、シケレベ、キハダの皮を漬けた珍しい果実酒も味わえる
店内に飾られるアイヌ工芸品にはレラ・チセから引き継いだものもあります。メニューはラタシケプ(まぜもの)、オハウ(汁もの)、鮭のルイベといったアイヌフードのほかに、エゾ鹿、ハスカップ、シケレベなど伝統食材を使った創作料理が味わえます。

かぼちゃのラタシケプ

オハウ

ムニンイモ。土の中で凍ったり融けたりを繰り返しながら発酵したじゃがいもを水にひたし、でんぷんを取り出し、乾かして貯蔵する。これを水でもどし、練って焼いたもの。アイヌの知恵と卓越した技が込められた食べ物

キピトロ(行者にんにく)のしょうゆ漬け
ハルコㇿの開店から40日ほど過ぎたころ、タミエさんが突然倒れました。店で出す料理をつくり終え、そのまま帰らぬ人になったのです。
「母は元気だったから、わざわざ料理を教えてもらおうとは思っていなくて。食事時、ときどき姉がポロッと母の話をして、そこで初めて知ったり、教えてもらうことがあったり。だからこそみんなで一緒にごはんを食べたりするときの何気ない会話はすごく大事だなと思うんですよね。そういう意味でもこういう場があるというのは、私は必要だなと思ってお店を続けています」
2025年春、ハルコㇿを中心としたドキュメンタリー映画『そして、アイヌ』(*)が公開され、その映画を観て来店し、「私、アイヌなんです」と打ち明けてくれる方もいたそう。
「自分はアイヌだけど、公言したくない、と。だけど、ここを訪ねてくれたことはとてもうれしいですね」
*ドキュメンタリー映画『そして、アイヌ』(大宮浩一監督)についてはこちら https://soshite-ainu.com/
<撮影/星 亘 構成・文/水野恵美子>
ハルコㇿ
●住所:東京都新宿区百人町1-10-1
●OPEN:月・火・水・金・土・日/12:00~14:00、17:00~22:00
(営業時間、定休日は変更になる場合も)
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




