(『天然生活』2025年8月号掲載)
「民族に誇りをもって生きる」祖母の教え

店が始まる前のほんのひと時、普段着のシャツにアイヌ刺しゅうをさす。「下手でもいいから、針に気持ちを込めながらさすことが大切なんです」
宇佐照代さんの祖母・ハツエさんは大正9年生まれの択捉(えとろふ)出身。50年以上前に東京に出てきて、東京にもアイヌが集まれる場所が欲しいと都に陳情し、「レラの会」の初代会長を務めました。
「祖母はアイヌ文化を伝承する活動家で、週末になるとアイヌの民族文化を紹介するイベントに出るため、私も祖母に連れられて歌や踊りを披露していました」
照代さんはアイヌ文化のことは何も知らずに北海道で育ち、東京で祖母と暮らすようになってから歌や踊りを知るようになったのです。
18年ほど前、ハツエさんが倒れて病室に駆けつけると「民族の誇りをもって生きてほしい」と声をかけられ、それまでやっていた祖母の活動がいったい何だったのかを自身で勉強したのは、大切な時間だったと照代さんは振り返ります。
2025年春、ハルコㇿを中心としたドキュメンタリー映画『そして、アイヌ』(*)が公開され、その映画を観て来店し、「私、アイヌなんです」と打ち明けてくれる方もいたそう。「自分はアイヌだけど、公言したくない、と。だけど、ここを訪ねてくれたことはとてもうれしいですね」
*ドキュメンタリー映画『そして、アイヌ』(大宮浩一監督)についてはこちら https://soshite-ainu.com/
魂をこめた「本物のアイヌ刺しゅう」を日常に

釧路地方に伝わる伝統衣装「チヂリ」。照代さんが初めてつくった作品。写真では見えないがアイヌ刺しゅうの特徴は裏地の美しさにもある。終わりを玉止めせず、布の中に織り込んでいくので、裏には刺し子のような模様が現れる
「20代後半になってアイヌ刺しゅうをした衣装を着て踊っていると、自分でつくられたんですか?とよく聞かれるようになって。じゃあ、自分で刺してみようと。とても大変でした。だから初めての衣装が完成したときは泣いてしまって」

マタンプシ(額飾帯)とテクンペ(手甲)。左右対称のアイヌ文様。文様には魔除けの呪力があるといわれている

照代さんはアイヌ刺しゅうをしたバックを愛用。伝統的な衣装に限らず、日常で使う財布や巾着などにも刺しゅうを施している
取材で伺ったときに刺しゅうをしていたのはデニムシャツ。
「日常で身に着けたいと思って。文様が左右対称でなければいけないとかそういうことにこだわらず、下手でも魂のこもった一針一針でつくられた作品が本物のアイヌ刺しゅうなんです」

シャツにチェーンステッチでオリジナルの文様をさしていく
アイヌ文化を広めようと、求められればどこにでも赴く照代さん。
「母が亡くなったときに気づいたんです。あれ、私、何のために生きるんだろうって。祖母、母がしてきたことを私も続けるためなんだって」
<撮影/星 亘 構成・文/水野恵美子>
ハルコㇿ
●住所:東京都新宿区百人町1-10-1
●OPEN:月・火・水・金・土・日/12:00~14:00、17:00~22:00
(営業時間、定休日は変更になる場合も)
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




