(『天然生活』2025年8月号掲載)
釧路から東京へ。アイヌ文化アドバイザーに
店主である宇佐照代さんは釧路に生まれ、アイヌの血をひくことを聞かされずに育ちました。両親が離婚し、10歳のころ、母・タミエさんときょうだい5人で祖母のいる東京に移り住みます。
タミエさんは家族の生活を支えようといくつもの仕事を掛け持ちし、またアイヌの人々が集う「レラの会」の活動にも熱心に取り組む、そんなパワフルな母の姿を見て子どもたちは育ちました。

ムックリ。口にくわえ、ひもを引き、口の中の空気と共鳴させて音を奏でる
照代さんもまた子育てしながら店に立ち、アイヌ文化アドバイザーとして若い世代に舞踊や楽器演奏などの伝承活動に加え、人権運動や講演と忙しい日々を送っています。

アイヌの意味は「人間」。だれかと区別しなくてもいい

照代さんの活動は多岐にわたる。この日はトンコリ教室。講演先で出会った学校の音楽の先生たちに弾き方だけでなく、曲の背景や言葉の意味などを説明しながら進める。刺しゅう、ウポポ(アイヌ歌舞)、アイヌ語、伝統文化を通して現代人に問うことはたくさんあり、今後も学びと同時に広く知らせる活動を続けていく
「アイヌの人たちは北海道に2万5000人以上、本州に5000人以上いるといわれますが、これは手を挙げた人数で実際にはその何倍もの人たちがいるのでは」と照代さんは語ります。
いわれなき差別を受けてきた歴史からアイヌであることを公言したくない、また、自身がアイヌだと知らされていない人たちがいるからです。

アイヌに伝わる伝統的な弦楽器、トンコリ。弦は5本、両手を使って演奏する。ハープに似たやさしい音色だが深みが感じられる
「アイヌ」とは特定の民族を指す固有名詞ではなく、「人間」という意味です。世界各地に先住民がいて、自分たちを指す名称の意味が「人間」である民族が多いと照代さんは話します。
「祖母は択捉(えとろふ)で育ち、周りにはロシア人がいっぱいいたといいます。祖母のきょうだいは色が白い、だから先祖にはロシア系の人がいたのかもしれません。父母のことを調べていくと私には200年前から和人の血が入っているんです。純粋な日本人がいないのと一緒。そもそもアイデンティティって何ですか。ほかの人と区別するという意味ですよね。自分を決めつけなきゃいけない。でも、私はアイヌだとか、私は何民族だとか、だれかと区別しなくてもいいのではないかと思うんです」
2025年春、ハルコㇿを中心としたドキュメンタリー映画『そして、アイヌ』(*)が公開され、その映画を観て来店し、「私、アイヌなんです」と打ち明けてくれる方もいたそう。
「自分はアイヌだけど、公言したくない、と。だけど、ここを訪ねてくれたことはとてもうれしいですね」
*ドキュメンタリー映画『そして、アイヌ』(大宮浩一監督)についてはこちら https://soshite-ainu.com/
<撮影/星 亘 構成・文/水野恵美子>
ハルコㇿ
●住所:東京都新宿区百人町1-10-1
●OPEN:月・火・水・金・土・日/12:00~14:00、17:00~22:00
(営業時間、定休日は変更になる場合も)
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




