• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今回は、元野良猫のまめとの経験を振り返りながら、爪切りを怖がる猫に無理をさせないセリさんのお手入れの工夫を綴ります。

    爪切りは、猫の「怖い」と人間の「守りたい」の間で

    ※爪切りの方法は、猫の年齢や爪の状態などによって異なります。事前にかかりつけの獣医師に相談し、その指導に従って行ってください。

    猫と暮らしていると、しつけや健康について書かれた本を読むことがあります。獣医師さんが監修した本には、食事や健康ケア、爪切りの大切さが、きちんと説明されています。

    読むたびに、「なるほど。爪も定期的に切らなくては」と思います。

    けれどわが家には、その“定期的”が通用しない子もいます。

    画像: お膝でお利口に切らせてくれる、全(ぜん)

    お膝でお利口に切らせてくれる、全(ぜん)

    元野良の猫にとって、足をつかまれ、爪を押し出され、目の前でパチンと音がする爪切りは、なかなかの恐怖です。「少し爪を切るだけですよ」と説明したところで、猫の顔には「これは命に関わるやつです」と書いてあります。

    かつて一緒に暮らしていた、元野良のまめも、長いあいだ爪を切らせてくれませんでした。

    抱こうとすれば逃げ、足に触れれば引っ込める。無理をして嫌われるのも怖くて、「よく爪とぎをしているし、きっと大丈夫」と思うことにしていました。

    変化があったのは、まめが高齢になってからです。

    ある日、床に小さな血の跡が付いていました。確認すると、伸びた爪が丸く巻き、肉球に刺さっていたのです。歩くたびに痛かったのでしょう。

    大変。切れないなんていっていられません。

    「大丈夫だからね」
    「私たちを信じてね」

    夫と祈るように声をかけながら、まめをそっと抱きかかえ、爪を切りました。

    不思議なことに、まめは暴れませんでした。こちらの必死さが伝わったのか、それとも「今回はしかたない」と観念したのか。爪を切り終えたあと、まめとの距離は以前よりも少し近くなりました。

    怖いことをされた、ではなく、痛いところを助けてもらった。そんなふうに感じてくれたのかもしれません。

    画像: 一生懸命爪を切らせてくれた、まめ

    一生懸命爪を切らせてくれた、まめ

    いま一緒に暮らしている猫たちも、全員が抱っこで爪を切れるわけではありません。足を持っただけで、「殺される!」とばかりに大暴れする子もいます。

    そんな子は、一度にすべての爪を切ろうとせず、その日の様子を見ながら、1本ずつ切るようにしています。肉球にそっと触れ、爪を1本だけパチン。足を引っ込めたり、嫌がる様子を見せたりしたら、そこで終了です。

    片方の前足の爪だけ切れたら、その日は大成功。1本だけでも十分です。すべての爪を一度に切ろうとして、次から近寄らせてもらえなくなるより、ずっといいと思っています。

    最近は、爪のお手入れを助けることをうたった爪とぎも売られています。よく走り、よく爪を研ぐ若い猫なら、爪切りの頻度が少なくても問題が起きないこともあります。

    「毎月必ず切る」という決まりよりも、その子の年齢や爪の状態、怖がり方に合わせること。

    私はときどき、爪を切らない日にも猫の肉球をぷにぷにと触ります。

    「握手しましょう」と前足を借りて、すぐに放す。最初は1秒、慣れたら2秒。猫にとっては迷惑な握手会かもしれませんが、足先に触れられる練習にはなります。

    画像: ときどき開催される握手会

    ときどき開催される握手会

    爪切りは、猫の健康を守るためのものです。だからこそ、猫が心から怖がっているときには、急がないことも大切なのだと思います。

    今日1本切れたら、よくできました。

    切れなかった日も、そばで眠ってくれたなら、それでよし。

    猫との暮らしは、正しい手順どおりにはいきません。

    その子の「怖い」と、こちらの「守りたい」の間で、ちょうどよい方法を、ゆっくり探していくのです。

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: 高齢猫の爪はこまめに確認する

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。

    note:https://note.com/sakiseri

    ◆ブログ「ちいさなチカラ」



    This article is a sponsored article by
    ''.