爪切りは、猫の「怖い」と人間の「守りたい」の間で
※爪切りの方法は、猫の年齢や爪の状態などによって異なります。事前にかかりつけの獣医師に相談し、その指導に従って行ってください。
猫と暮らしていると、しつけや健康について書かれた本を読むことがあります。獣医師さんが監修した本には、食事や健康ケア、爪切りの大切さが、きちんと説明されています。
読むたびに、「なるほど。爪も定期的に切らなくては」と思います。
けれどわが家には、その“定期的”が通用しない子もいます。

お膝でお利口に切らせてくれる、全(ぜん)
元野良の猫にとって、足をつかまれ、爪を押し出され、目の前でパチンと音がする爪切りは、なかなかの恐怖です。「少し爪を切るだけですよ」と説明したところで、猫の顔には「これは命に関わるやつです」と書いてあります。
かつて一緒に暮らしていた、元野良のまめも、長いあいだ爪を切らせてくれませんでした。
抱こうとすれば逃げ、足に触れれば引っ込める。無理をして嫌われるのも怖くて、「よく爪とぎをしているし、きっと大丈夫」と思うことにしていました。
変化があったのは、まめが高齢になってからです。
ある日、床に小さな血の跡が付いていました。確認すると、伸びた爪が丸く巻き、肉球に刺さっていたのです。歩くたびに痛かったのでしょう。
大変。切れないなんていっていられません。
「大丈夫だからね」
「私たちを信じてね」
夫と祈るように声をかけながら、まめをそっと抱きかかえ、爪を切りました。
不思議なことに、まめは暴れませんでした。こちらの必死さが伝わったのか、それとも「今回はしかたない」と観念したのか。爪を切り終えたあと、まめとの距離は以前よりも少し近くなりました。
怖いことをされた、ではなく、痛いところを助けてもらった。そんなふうに感じてくれたのかもしれません。

一生懸命爪を切らせてくれた、まめ
いま一緒に暮らしている猫たちも、全員が抱っこで爪を切れるわけではありません。足を持っただけで、「殺される!」とばかりに大暴れする子もいます。
そんな子は、一度にすべての爪を切ろうとせず、その日の様子を見ながら、1本ずつ切るようにしています。肉球にそっと触れ、爪を1本だけパチン。足を引っ込めたり、嫌がる様子を見せたりしたら、そこで終了です。
片方の前足の爪だけ切れたら、その日は大成功。1本だけでも十分です。すべての爪を一度に切ろうとして、次から近寄らせてもらえなくなるより、ずっといいと思っています。
最近は、爪のお手入れを助けることをうたった爪とぎも売られています。よく走り、よく爪を研ぐ若い猫なら、爪切りの頻度が少なくても問題が起きないこともあります。
「毎月必ず切る」という決まりよりも、その子の年齢や爪の状態、怖がり方に合わせること。
私はときどき、爪を切らない日にも猫の肉球をぷにぷにと触ります。
「握手しましょう」と前足を借りて、すぐに放す。最初は1秒、慣れたら2秒。猫にとっては迷惑な握手会かもしれませんが、足先に触れられる練習にはなります。

ときどき開催される握手会
爪切りは、猫の健康を守るためのものです。だからこそ、猫が心から怖がっているときには、急がないことも大切なのだと思います。
今日1本切れたら、よくできました。
切れなかった日も、そばで眠ってくれたなら、それでよし。
猫との暮らしは、正しい手順どおりにはいきません。
その子の「怖い」と、こちらの「守りたい」の間で、ちょうどよい方法を、ゆっくり探していくのです。
◇ ◇◇ ◇◇

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。
◆note:https://note.com/sakiseri
◆ブログ「ちいさなチカラ」
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