• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今回は、猫が大好きなのに、実は猫アレルギー。そんなセリさんが、鼻をかみながら10匹の猫たちをブラッシングする、ちょっと大変で楽しい秋のお話です。

    鼻水と猫の毛と、ちょっと楽しい

    私は、10匹の元保護猫と暮らしています。

    猫が好きです。とても好きです。猫がそこにいるだけで、幸せです。

    ただし、ひとつだけ問題があります。私は、猫アレルギーです。こんなに猫を愛しているのに、私の鼻は猫を歓迎してくれません。

    とくに秋。花粉症の季節と重なるように、猫たちにも換毛期がやってきます。

    ふわふわ。もふもふ。舞う舞う、猫の毛。猫たちが廊下を走るだけで、空中に毛がきらきら舞っています。

    きれいだなあ。......などと、うっとりしている場合ではありません。鼻水が、だらだら。かんでもかんでも出てきて、そのうち鼻の中が乾燥してかさぶたになり、鼻血まで出る始末です。

    でも、かわいい猫たちの毛ですから。つらくない。つらくない。......いや、つらい。

    そんなわけで、この季節、わが家で何より大切になるのがブラッシングです。

    画像: 半長毛だから、毛もたっぷり

    半長毛だから、毛もたっぷり

    画像: 首の下も気持ちいい

    首の下も気持ちいい

    以前は、ブラシをきちんと収納していました。リビングの雰囲気を壊さないように、と。でも10匹もいると、そんなことを言ってはいられません。いまではリビングのまんなかに、堂々とブラシを置いています。

    通りすがりの猫を見つけては、「はい、ちょっと失礼しますよ」と、カッシカッシ。別の猫が来たら、またカッシカッシ。

    面白いくらい取れます。ふわーっとブラシいっぱいにたまった毛を見ると、「こんなに取れた!」となぜか達成感までわいてきます。換毛期というより、ちょっとした収穫期です。

    画像: こんなに取れましたよ

    こんなに取れましたよ

    これまでは、取れた毛をそのまま捨てていました。ところが最近、楽しいものを見つけました。猫の毛を入れておく、小さな透明ケースです。

    画像: 花瓶の部分にはおひげも入ります

    花瓶の部分にはおひげも入ります

    もともとは、亡くなった子の毛を大切に残しておく「遺毛入れ」としてつくられたものも多いようですが、探してみると、手頃なものから、きれいに飾れる凝ったものまで、いろいろあります。

    それを見た瞬間、思いました。これ、全員分ほしい。そうして、10匹分そろえました。

    ケースには、それぞれの名前を書きます。ブラッシングした毛を、少しずつ中へ。黒猫でも、よく見ると毛の風合いは少しずつ違います。灰色っぽい黒。ふわふわの毛。少し硬めの毛。同じ「猫の毛」なのに、ちゃんとその子の毛です。

    画像: 猫の数だけコレクション

    猫の数だけコレクション

    透明なケースに入った小さな毛玉を眺めていると、なんだか妙にかわいい。

    気づけば、「今日はけっこう取れたねえ」「もうちょっとで、このケースが満タンになりますよ」などと、コレクションを眺める人のようになっています。

    鼻水は出ます。くしゃみもします。猫の毛は服にもつくし、ソファにもつくし、ときにはなぜかお茶碗の中にまで入っています。

    それでも。

    猫と暮らしていると、面倒なことや、ちょっと困ることまで、いつの間にか遊びに変わってしまうことがあります。

    今年の秋も、私は鼻をかみながら猫をブラッシングします。

    カッシカッシ。

    また毛が取れた。「やった」

    鼻はつらい。でも、ちょっと楽しい。そんなわが家の、秋です。

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: 人間側のケアも忘れずに

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。

    ◆note:https://note.com/sakiseri

    ◆ブログ「ちいさなチカラ」

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