(『天然生活』2017年8月号掲載)
おいしくて香り豊かなハーブをつくる畑
レモンマートル、ソープワート、ヘリオトロープ……。たくさんのハーブが、伸び伸び、わさわさと茂る、まるふく農園。
あたりにレモンの香りを放つレモンユーカリにいたっては、ハウスを突き抜け、空に向かって、いまなお生長中。その姿を見上げ、長男の健太さんは「温室じゃなくなってしもうた」と、頭をかいて笑います。
まるふく農園はハーブ専門だけに、市場に出まわらないような珍しいハーブも多く、扱う品種は年間で300以上にも。農薬や肥料を極力使わずに育てられ、ピンとしてみずみずしく、香りもしっかり。
飲食店や青果店へ卸す食用がメインでしたが、ここ4~5年は、その種類の豊富さから切り花用の注文も急増し、家族5人で出荷に栽培に大忙しの毎日です。
「ハーブが切り花として商品になるなんて思わなかったから、最初は驚きました」と健太さん。
「母が趣味でつくったハーブのブーケを、東京から来た仲卸の人がたまたま見て気に入ってくれて、それからですね。花のプロたちがハーブの新しい魅力を見つけて、引き出してくれました」
フラワースタイリストの平井かずみさんも、まるふく農園のハーブを愛用するひとりです。「まるふくさんのハーブは、本当に多彩。いろいろなハーブの花に出合う機会は私たちでも少ないので、このハーブは花がこんなに素敵だったんだと、毎回、発見があるんです」
こんなハーブを育てています
まるふく農園は珍しいハーブの宝庫です。
親子で受け継がれた土を育む農法
まるふく農園がある高知市福井町は昔から花農家が多く、健太さんの祖父もダリアや芍薬を中心につくる農家でした。
ハーブ専門になったのは、お父さんの康博さんの代から。もともと「人と違うことをやりたいと思っていた」という康博さんは、1985年から本格的にハーブの栽培を始めます。健太さんが小学生のときでした。
康博さんは慣行農法からハーブづくりをスタートし、さまざまな農法を試して模索し、現在の「炭素循環農法」(化学肥料や堆肥を使わず、キノコの廃菌床など炭素率の高いものを土に混ぜて微生物の力で「発酵型」の土をつくり作物を育てる農法)にいき着きます。
命の営みを理解せずに命は育てられない、と康博さん。「土の中の微生物を増やせば土が元気になり、農薬にも肥料にも頼らずに、いいハーブができる。自然まかせだから思いどおりにならないことも多いけれど、それが面白くてね」
ハーブを囲んだ団らんは香りとともに記憶に刻まれる
まるふく農園がハーブ農家として歩みはじめたころは、まだハーブが珍しかった時代。栽培だけでなく、ハーブを広める活動も同時に必要でした。
そこで、健太さんの母・朝子さんは料理の腕を生かしてハーブの料理教室を始め、康博さんと二人三脚でハーブづくりを支えてきました。「ハーブを取り入れた家庭料理を提案しました。自分も本で勉強しながら探り探りだったけど、喜んでもらえたし、楽しかったですね」
楠瀬家の食卓にもハーブは頻繁に登場し、味噌汁の具がコリアンダーなんてこともあったとか。好きも嫌いもなく、物心ついたころから健太さんのそばには、ごく自然にハーブがありました。
とはいえ、農家を継ぐ気はなかった健太さんは、「高知を出たい一心で」、関東の大学に進学します。すっかり東京の生活になじんだころ、ひょんなことからハーブショップでアルバイトをすることに。「そこでハーブの香りをかいだとき、実家でのいろんなことを一気に思い出したんです。すごく懐かしくて、やっぱり自分はハーブが好きなんだなと、そのとき思いました」
※妊娠中の方がハーブづくりを楽しむ場合、かかりつけ医に相談のうえ行い、食利用はお控えください。
<撮影/河上展儀 取材・文/熊坂麻美>
まるふく農園
高知県高知市福井町512-1
☎088-875-3826
http://www.marufuku.noen.biz/
※トップの写真について
健太さんは路地の畑で切り花用のハーブを育てている。出荷に合わせて収穫するため生長が追いつかないものがあるのが、いまの悩み。切り花用は、ブーケにしたときに形が整うように、少し硬めに育てる工夫もしている
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです