• 醤油は、日本の風土が生んだ発酵調味料。その昔ながらの味を守るために、小さな醤油蔵が挑んだこととは?
    (『天然生活』2014年7月号掲載)
    画像: ラベル貼りは手作業。びんをリサイクルしやすいように、ラベルの縁だけをのり付け

    ラベル貼りは手作業。びんをリサイクルしやすいように、ラベルの縁だけをのり付け

    画像: 産地にこだわった原料 使っているのは北海道産や地元・讃岐の小麦、北陸の丸大豆、丹波の黒豆、井戸水、天日塩

    産地にこだわった原料
    使っているのは北海道産や地元・讃岐の小麦、北陸の丸大豆、丹波の黒豆、井戸水、天日塩

    画像: 黒豆を原料にした「菊醤」はあっさりしていて、あと口がほのかに甘い。再仕込みの「鶴醤」は濃厚なうま味

    黒豆を原料にした「菊醤」はあっさりしていて、あと口がほのかに甘い。再仕込みの「鶴醤」は濃厚なうま味

    画像: 焼き肉や新鮮なお刺し身には、コクのある「鶴醤」がおすすめ。あっさりと仕上げたい煮ものなどには「菊醤」を

    焼き肉や新鮮なお刺し身には、コクのある「鶴醤」がおすすめ。あっさりと仕上げたい煮ものなどには「菊醤」を

    昔からずっと続く味を子どもに、孫に残していく

    桶から手づくりして醤油を仕込む

    古桶と並んで、白木のまぶしい新桶が据えてありました。

    「昨年の秋にできたばかり。ぼくが、知り合いの大工と一緒につくりました」と山本さん。

    きっかけは、桶の新調でした。ヤマロク醤油の木桶は、多くが100年ほど前につくられたもの。あと50年で木桶の寿命が尽きてしまうことを知った山本さんは、2009年、あわてて大阪・堺の製桶所に新桶を発注しました。

    画像: 新桶では、2013年の1月からもろみを仕込んでいる。2015年の秋ごろには“新桶仕込みの濃口醤油"として販売される予定

    新桶では、2013年の1月からもろみを仕込んでいる。2015年の秋ごろには“新桶仕込みの濃口醤油"として販売される予定

    自分の桶は自分で直せるようにしとけや

    「醸造用の木桶を製造できるのはいまやそこだけだというのに、親方は『醤油桶を新しくつくってほしいと頼まれたのは、おたくが戦後初や。跡継ぎはいないし、わしも、いつまでできるかわからん。自分の桶は自分で直せるようにしとけや』というんです。いつの間にか大変な時代になっていたんだと、愕然としました」

    古い木桶は、解体して組み直せば、さらに20年ほど使えます。けれども、それでは子孫が苦労するでしょう。考えた末、山本さんは、桶屋になろうと思い立ちました。醤油屋をやめるのではない、桶屋もできる醤油屋になればいいのだ、と考えたのです。

    画像: 19mの竹をタガに編む。一緒に桶修業をした大工の坂口直人さんは、中学時代からの気心知れた友人

    19mの竹をタガに編む。一緒に桶修業をした大工の坂口直人さんは、中学時代からの気心知れた友人

    山本さんは新たに3本の桶を発注し、それを教材に、知人の大工ふたりとともに桶のつくり方を教わりました。島へ帰ると、さっそく桶づくり開始です。材料は吉野杉。桶の周囲に巻き留める“タガ”は竹。こちらは、小豆島で切り出すことに。

    子孫に受け継ぐ桶を、自分の手で……。

    山本さんは島内を訪ね歩き、理想の竹林を見つけます。そこは適度に間引かれて日が入るため、竹が長くまっすぐに育っていました。これなら、直径2m以上ある桶も留められそうです。

    「竹を譲ってくれませんか」と山本さんが持ち主に願い出ると、「なに水くさいこといっとる!」と一喝されました。

    「俺は昔、おまえのじいさんと約束したんだ。『いつかここの竹をタガに、醤油桶をつくろう』と」

    子孫に受け継ぐ桶を、自分の手で……。亡き祖父もまた同じ思いを抱いていたことを、山本さんは知ったのでした。

    ひとつの味を守るためにひとりひとりができること

    画像: 子どもたちは、タガで電車ごっこをしたり、古い木桶に入ったり。年配の人は「昔は桶屋がどこの町にもあったわね」と懐かしがる

    子どもたちは、タガで電車ごっこをしたり、古い木桶に入ったり。年配の人は「昔は桶屋がどこの町にもあったわね」と懐かしがる

    木桶づくりがこの島で始まったことを知り、他の醤油醸造所も応援してくれました。今年の「ヤマロク祭り」ではタガづくりもお披露目。子どもたちは木桶やタガで遊びながら、醤油桶に親しみます。

    「大きくなったら桶屋になる!」と7歳の次男が叫びます。「僕は醤油屋」と、9歳の長男。山本さんは、そんなわが子をやさしく見守ります。

    画像: 毎年4月の「ヤマロク祭り」。醤油の無料配布やお菓子まきなどが行われ、近所の人たちが楽しみに集まってくる

    毎年4月の「ヤマロク祭り」。醤油の無料配布やお菓子まきなどが行われ、近所の人たちが楽しみに集まってくる

    画像: お祭りでは寿司やお菓子の販売も。これは小豆島北部に伝わる郷土料理「石切り寿司」。酢飯がぎっしりと押されてある

    お祭りでは寿司やお菓子の販売も。これは小豆島北部に伝わる郷土料理「石切り寿司」。酢飯がぎっしりと押されてある

    画像: お祭り名物、小豆島焼きそば。麵にもろみをからませたあと、レタスを入れて醤油をふる。あっさりしていて大好評

    お祭り名物、小豆島焼きそば。麵にもろみをからませたあと、レタスを入れて醤油をふる。あっさりしていて大好評

    「ぼくらの先祖も、それぞれにそのときの役割を務めたんでしょう。ぼくはたまたま、桶が消える時代に醤油屋をしていた。ぼくの子や孫が桶屋をすれば、醤油、味噌、みりん、酢……木桶を使う本物の発酵調味料が100年後まで残るかもしれない」

    100年先の世の中は、だれにもみえません。それでも、いまのこの努力が未来の人々を喜ばせることができると、山本さんは信じています。天然醸造に携わる人は、普通の人よりも長いスパンで、ものをみているのかもしれません。

    小豆島の気候と、この地で暮らす微生物、年月を重ねた醤油蔵、木桶、働き者の職人……。目に見えるものと見えないものが助け合いながら、醤油はゆっくりと醸されていきます。

    画像: 次男の康助くんと。「こいつが大人になり、孫の代になるころには、新桶がいい働きをするはず」と山本さん

    次男の康助くんと。「こいつが大人になり、孫の代になるころには、新桶がいい働きをするはず」と山本さん

    画像: フラフープならぬ“タガフープ”を上手に回して歓声を浴びていたのは、山本家の末っ子、5歳の笑実ちゃん

    フラフープならぬ“タガフープ”を上手に回して歓声を浴びていたのは、山本家の末っ子、5歳の笑実ちゃん

    画像: みんなで“職人ポーズ” ヤマロク醤油のスタッフと山本さん。カメラを向けると、「ぼくたち、きまりのポーズがあるんです」と、いっせいに

    みんなで“職人ポーズ”
    ヤマロク醤油のスタッフと山本さん。カメラを向けると、「ぼくたち、きまりのポーズがあるんです」と、いっせいに

    <撮影/鈴木静華>

    ヤマロク醤油
    150年ほど前に、醤油を搾る前の「もろみ」専門店として創業。昭和24年から、醤油醸造まで手がけるようになった。
    香川県小豆郡小豆島町安田甲1607 ☎0879-82-0666
    http://yama-roku.net/

    ※トップの写真について
    熟成を終えたもろみを布に包み、何十枚も積み重ねてプレス。生醤油を圧搾していく。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

    This article is a sponsored article by
    ''.