(『天然生活』2017年12月号掲載)
金井美恵子 小さな暮らしの断片 「シュトーレンとクリスマス・カード」(前編)より続き —
暮れや正月の行事は何もしない私たちなので、それを知っている知子さんの焼いたシュトーレンをいただいたのは、たしか三度目だ。たまたま、カポーティー風のフルーツ・ケーキや、ドイツの名店のシュトーレンを知りあいの方からいただくことになったその年は、なぜか十一月の末にチョコレート屋で作る特製のクリスマスのチョコレート・ケーキを注文していて、私たちは短期間に沢山食べたケーキに食傷していたのだったが、知子さんの焼いた、真っ白な粉砂糖のかぶった細長いシュトーレン(たっぷり入った何種類ものドライ・フルーツと木の実と洋酒と、バター、発酵した小麦粉の生地の混りあった甘いかおり)の、豊かなさっぱり風味は、シーズン中に大量生産される有名菓子店の画一的においしい味とは、どこかが、断然、違うのである。
お菓子作りの上手な知人のお母さん二人と知子さんの三人が口々に語るコツは、純良な材料を使って、ていねいに作った、というものだ。知人の一人は、子供の頃、母親が教室で教えているケーキの試作品(というか失敗作)をいつもいつも食べさせられていたせいで、年中、胃の具合が悪かったし、すっかり和菓子党になったのだと言っていたけれど──。シュトーレンのような素朴なクリスマスの焼菓子は「良い材料をていねいに」つくるわけだろうが、「ていねい」を「愛情」などと言いかえると、焼きすぎてコゲたりするのではないだろうか。
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今月の姉の作品は、可愛くてきれいなので、大事にとっておいた友人や知人にいただいたクリスマス・カードや万聖節の飾り用の猫を集めた小さな箱のコラージュ。送ってくださった方々を思い出しながら、真っ白な粉砂糖のかかった香りの良いケーキを切り分けて、コーヒーをいれると、意地悪のスクルージ老人の気分は、すっかり消え失せる。
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左)金井美恵子(かない・みえこ)
小説家。1947年高崎市生まれ。著書に『カストロの尻』(新潮社)で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。著書に本誌連載を中心にまとめた『たのしい暮しの断片』(平凡社)ほか多数。
右)金井久美子(かない・くみこ)/画
10月15~27日まで、恵比寿のギャラリーまぁるにて、金井久美子の新作展「箱の内と外」を開催。
(問)ギャラリーまぁる
東京都渋谷区恵比寿4-8-3 神原ビル1階
TEL.03-5475-5054
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知子さんに焼いていただいたシュトーレン。見た目も美しく、しみじみとおいしい
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです