(『天然生活』2013年11月号掲載)
栗|9月~
丁寧に茹でこぼす 松田美智子
栗がおいしい季節がやってきました。ほくほくとした食感、品のいいほのかな甘味は、まさに季節の恵みです。
待ちに待った新栗なら、そのままゆでるか蒸すかしてから半分に切り、スプーンでかき出しながらいただくだけで、十分にごちそうです。
渋皮煮は栗本来のうま味を生かした、先人たちの保存の知恵
そんな季節の滋味を少しでも長く楽しみたいと、先人たちがこぞって考えた保存の知恵のなかでも、渋皮煮は栗本来のうま味を生かした最高峰。渋皮の独特なほろ苦味が加わることで、なんとも大人っぽい甘味となるのです。
「実家の祖母は、毎年、秋になると辰巳芳子さんの母上である辰巳浜子さんの『料理歳時記』の中に記されている手法で、渋皮煮をつくっていました。子ども心にも、手をかけた味の尊さが伝わりました。ところが、大人になって、いざ自分でつくってみると、あくを抜く工程にとても手がかかります。そこで時間との相談で、少しずつ自分なりに工夫していき着いたのが、いまの方法です。なるべく重曹の量を減らし、かつ、ゆでこぼす回数を減らすという、ふたつのグラフのちょうど交わるところが、このレシピなのです」と話す松田さん。
最後にブランデーで風味をつけるのもオリジナルだそう。ラム酒を加える方法が文献にはよく出ていますが、到来物のブランデーを使ってみたところ、香り高さが全然違ったそうです。
ブランデーで仕上げると、アイスクリームと合わせたりパウンドケーキに焼き込んだりという、洋風のアレンジにもぐっとなじみがよくなるのです。
おせち料理にも栗の渋皮煮を
また、松田家では、おせち料理にも栗の渋皮煮が欠かせません。栗きんとんの代わりに渋皮煮を入れるのが10数年来の定番です。
ただし、糖度を低く仕上げているので、日持ちという点では、お正月まではちょっと心配です。最初から必要量を取り分けて、おせち用に冷凍保存しておき、自然解凍して使います。
栗そのものは、長野県小布施の「平松農場」から、毎年、取り寄せています。旅行で小布施を訪れたときに、あんずのシロップ漬けを買って以来のおつきあいだそう。
小布施といえば、江戸時代には栗で年貢を納めたほどの由緒ある名産地。秋になってさっそく取り寄せてみたところ、品質の高さはさすがでした。
「栗の渋皮煮には、「銀寄(ぎんよせ)」という品種が向くのだそう。だから、栗屋さんに電話をして、状態が一番いいときに送ってもらうようにしています。毎年、その時季が近づくと、渋皮煮をつくる時間をやりくりする算段で四苦八苦します。幸せな悩みですね」
栗の渋皮煮のつくり方
何度もゆでこぼしてあくを抜きながらていねいに煮上げた栗の渋皮煮は、栗料理の王道です。渋皮のほろ苦味と、ほろり、そしてしっとり、の質感を楽しんで。

材料(つくりやすい分量)
● 栗(Lサイズ) | 1kg |
● 重曹 | 大さじ1 |
● 三温糖 | 450g+1/4カップ強 |
● ブランデー | 1/4カップ+大さじ2 |
つくり方
1 栗をたっぷりの水にひと晩つける。渋皮を傷つけないように気をつけながら底部に包丁を入れ、引っ張るように、頂部へ向けて鬼皮をむく。

2 土鍋またはホウロウ鍋に1の栗とたっぷりの水を入れ、ふたをせずに中火にかけ、ふつふつ沸いてきたら重曹を加え、弱火にして、15分ゆでる。

3 2を流しに移し、水を少しずつ注ぎ、水を入れ替える。再度、火にかけてゆでこぼす作業を3回繰り返す。指の腹でこすり表面をきれいにする。

4 鍋に3の栗、水約4カップ、三温糖450gを入れて火にかけ、紙ぶたをする。沸騰したら弱火で、20分煮て火を止め、ひと晩おく。

5 4を再度、火にかけ、温まった栗の味をみて、残りの三温糖を適宜足し、さっと沸かして火を止める。ブランデー1/4カップを加えて紙ぶたをし、粗熱がとんだら栗を取り出し、密閉容器に移す。残った煮汁を好みの濃度に煮つめ、ブランデー大さじ2を加えて栗にかける。

茶巾絞り
煮くずれた栗を利用して手軽に楽しむ

つくり方
1 煮ている間にくずれた栗の渋皮煮を集めて、フォークなどで粗くくずす。
2 ラップに包み、ぎゅっと茶巾に絞って形をつけて、でき上がり。
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<料理/松田美智子 撮影/川村 隆 取材・文/小松宏子>

松田美智子(まつだ・みちこ)
日本料理をベースにした家庭料理の教室を1993年より主宰。鎌倉で育った子ども時代から身近だった保存食づくりを基本に、いまの時代に無理なく楽しめる季節の仕事を提案。著書に『65歳からの食事革命 』(文化出版局) amazonで見る など。
インスタグラム:松田美智子@michiko_matsuda/自在道具@jizai_dougu
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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