彼女の名前は梅村マルティナさん。華やかな模様が簡単に編める大人気の毛糸、オパール毛糸を日本に広めた人物です。
マルティナさんは2012年、宮城県気仙沼市に「梅村マルティナ気仙沼FSアトリエ(KFS)」を設立し、現在ではオパール毛糸の輸入販売をはじめ、帽子や靴下などのニット製品の加工や販売、編み物教室など、精力的に活動しています。
この度、著書『しあわせを編む魔法の毛糸』『レリーフ編み』の発売を記念し、マルティナさんを訪ねました。マルティナさんのこと、オパール毛糸の魅力、そしてご著書について伺います。
一本の毛糸を編むだけで模様が現れる
“魔法の毛糸” に魅せられて。
故郷ドイツで、小学生の頃から編み物に親しんできたというマルティナさん。30年ほど前に医学研究者として来日します。やがて結婚、子育てにも追われる日々のなか、編み物とはしばらく遠ざかっていました。
編み物への情熱を再び駆り立てたのが、ドイツに帰った際、編み物好きの母親から見せられたオパール毛糸だったのです。
「初めて見たとき、『なんて素敵なの!』と衝撃を受けました。それから再び編み物に夢中になったんです」
仕事や育児の合間に靴下などを編み、やがて京都の知恩寺の手づくり市に出店したことで、評判を呼ぶようになりました。
オパール毛糸の大きな特徴は、一本の毛糸が何色にも染め上げられているということ。そのため、単純に一本の糸をメリヤス編みしていくだけで美しい模様が編めるのです。
糸始末をしなくても、裏側もすっきりきれい。色がたくさん入っているため、編み目が不ぞろいでも目立たないのが、編み物初心者にもうれしいポイントです。
「ただ編んでいくだけでカラフルな模様が浮かび上がっていくのがうれしくて。何かをつくりたいというより、編むこと自体が楽しい毛糸なんです」とマルティナさんは話します。
触っているだけでしあわせになる毛糸。
マルティナさんによると、オパール毛糸の魅力はそれだけではありません。
「毛糸が柔らかいので編みやすい。それに肌触りが良いので、触っていて気持ちいいんです。編み上げたニットは洗濯機で洗えるし、へたりにくいんですよ」
ドイツの実家近くにあるオパール毛糸のメーカー、TUTTO社を訪ねたことで縁ができ、今では一緒に開発したマルティナさんオリジナルカラーの毛糸もたくさんあります。名前も「遊園地」「赤ずきんちゃん」「お父さんの笑顔」など、楽しいものばかりです。
“しあわせを編む輪” を広げたい。
「オパール毛糸で編み物をしている全国の方々から手紙をいただくことも。子育てや介護などの合間に編むと気持ちが明るくなると言ってくださいます」とマルティナさん。
「病院の待合室などで編んでいると、見知らぬ人から『なんという毛糸ですか?』と話しかけられて、それをきっかけに友達になることもあるそうです。そんな風に、オパール毛糸を通じて “しあわせを編む輪” が広がっていけばいいですね」
そんな気持ちを実行に移したのが2011年の東日本大震災後。自分にできることは何かと考えたマルティナさんは、いくつかの避難所にオパール毛糸と編み針を送りました。そのうちのひとつ、気仙沼の避難所から「もっと毛糸を送ってほしい」と連絡が来たのをきっかけに気仙沼との繋がりが生まれます。
そして2012年、「地元の女性たちにとって魅力的な職場をつくりたい」という思いから、気仙沼に会社を設立したのです。
現在は住まいのある京都と気仙沼を行き来するマルティナさん。毛糸を手にしない日は一日もないといいます。
「いつでもどこでも、編み物をしているときだけは自分だけのしあわせな時間と空間をつくれます。心が落ち着くし、きれいな色を見ていると元気も出るんです」
「毛糸にふれればみんなしあわせ」が、マルティナさんのモットー。次回は、オパール毛糸の魅力や作品を紹介した著書『しあわせを編む魔法の毛糸』をたっぷりと紹介します。
<撮影/山川 修一、村林千賀子(“しあわせを編む輪” を広げたい。) 取材・文/嶌 陽子>
梅村マルティナ(うめむら・まるてぃな)
ドイツ生まれ。1987年、医学研究者として来日。京都大学大学院医学研究科博士課程修了ののち、ドイツ語講師として働きながら、ドイツ製の毛糸「Opal(オパール)」を使った編み物作品を制作し、評判に。東日本大震災後、宮城県気仙沼の避難所に毛糸を送ったことをきっかけに活動の場が広がり、2012年に「梅村マルティナ気仙沼FSアトリエ(KFS)」を設立。毛糸の輸入販売、毛糸製品の加工・販売、編み物教室などを行っている。
著書『しあわせを編む魔法の毛糸』『レリーフ編み』(ともに扶桑社)が今秋、復刊したばかり。
https://www.kfsatelier.co.jp/
Webショップ
https://kfsamimono.com/