※ 写真について:老後を見すえたリフォームの際、リビングに大きな収納を設け、見せたくないものを一気に隠せるようになったので、片づけがラクに。
暮らしにあわせて、住まい方を変えていく
山中とみこさんが住んでいるのは、かつての新興住宅地に建つ高層マンションです。窓からの眺めが気に入って、築24年だった中古物件を購入したのは1996年のこと。以来、ライフステージに合わせてリフォームを重ねながら住み続けています。
「3DKの間取りを、住みはじめてから2LDKにセルフリフォームしました。当時は息子たちがいて、個室は子ども部屋にしていたから、私と夫はリビングのすみっこに布団を敷いて寝ていたんです」
部屋数を減らしてもリフォームに踏み切ったのは、窓からの眺めをより楽しめるような、開放的な空間にしたかったから。限られた条件の中でも、自分たちが住まいに求める優先順位を明確にして、工夫をしながら住みこなしてきたそうです。
しばらくして長男が独立すると、空いた個室はご主人の部屋に。その3年後、次男が独立し、山中さんは53歳にして自分の部屋を手に入れました。
「その頃、私はすでに自宅で服づくりをはじめていました。ダイニングテーブルでミシンがけや生地の裁断をしていたから、食事のたびにしまうのがたいへんで……。自分の部屋ができたときは、『ようやく思う存分、好きなことができる!』という気持ちでした」
引き継いだ4畳半の和室は、若い大工さんにリフォームをオーダーし、服づくりをするアトリエに生まれ変わりました
住まいに満足できていれば幸せ
やがてご主人が定年を迎える頃、山中さんの中に「もっとシンプルに暮らしたい」との思いがわいてきました。老後の暮らしを見すえて、これまで手つかずだったご主人の部屋と、キッチン、リビングの一部をリフォームすることに。
「もっと掃除や片づけがしやすい、始末のいい暮らしを目指したいと思ったんです。これが人生最後のリフォームのつもりで、初めて工務店に依頼をしました」
とはいえ、工務店からあがってきた見積もりのままでは予算オーバーだったため、アイデアをひねり出してコスト削減を図ったという山中さん。
まず、あきらめたのは床の全面張り替えと、キッチンの造りつけ収納です。床は既存の状態に上からベニア板を貼ることで、見た目を一新。キッチンの収納は、もともと持っていた家具を移動させたら、ぴったりはまって代用ができたそうです。
「ベニア板を貼った床は、ざっくりした質感がとても気に入っています。たとえお金がかけられなくても、『それじゃあ、どうしよう』と自分になりに考えることで、人と違うアイデアが生まれて、結果として自分らしい空間につながっていくのかもしれません」
山中さんにとって、住まいはとてもたいせつなもの。自分の好きな空間で暮らせていれば、心は満たされるのだそうです。
「その時々の条件と折り合いをつけながら、少しずつ、自分が思うような空間に近づいてきたからこそ、今の住まいを実現できたことに大きな喜びを感じています」
*次回は、森岡書店にて開催された出版記念トークイベントの内容を紹介する予定です。
<写真/安永ケンタウロス 文/石川理恵>
山中とみこ(やまなか・とみこ)
布作家/専業主婦、古道具屋店主、小学校の特別支援学級の補助職員などを経て、2003年、49歳のときに大人の普段着のレーベル「CHICU+CHICU 5/31(ちくちくさんじゅういちぶんのご)」をスタート。現在は、埼玉県所沢市にてギャラリー&ショップ「山中倉庫」を不定期オープンしているほか、全国のギャラリーなどで展示会を開いている。
Instagram:@chicuchicu315