(『天然生活』2017年12月号掲載)
食べて、話して、くつろぐ。食卓を暮らしの主役に
18年ほど前に、千葉から神奈川・鎌倉へ移り住んだ東川則子さん。
「まさか50歳を過ぎて引っ越すなんて思っていなかったんです。でも、主人が波乗りをやりたいから海辺のそばに住みたいといいだして」と笑います。
陽の光がさんさんと降り注ぐリビングに一歩入ると、まず目に飛び込んできたのが、7種類の木をパズルのように組み合わせたテーブルです。
手がけた木工作家・中川久嗣さんは、さまざまな樹木が、それぞれの場所で過ごしてきた時間や、その場の光、風にまで想いを馳せ、家具をつくっているそう。
「千葉に住んでいたころ、中川さんの家で、このテーブルに出合ったんです。すごく素敵、と思ったんですが、当時住んでいた家にはなんだか似合わなくて……。この家に引っ越してきて、真っ白な壁や天井、そして大きな窓という開放的な空間を手に入れたとき、『そうだ、ここなら中川さんのテーブルがきっと合うはず』と思ったんです」
新居での毎日は、年老いたご両親の介護とともに始まりました。
「食べることって、生きる力になってくれるでしょう? 母は晩年、ほとんどベッドで過ごしていましたが、食事だけは、ちゃんと起きて、食卓でごはんを食べたんです。テーブルが、私たちの暮らしの要になってくれました」。
そして白い椅子は、家具工房「駿河意匠」のもの。ここに引っ越してきてから座面を白い革に張り替え、DIYが得意なご主人が木部をペイントしてくれたそうです。
いまでは、近所に住むお孫さんたちが遊びに訪れ、一緒にごはんを食べたり、お絵描きをしたり。
「私は、幼いころは、両親が転勤族で、2〜3年おきに引っ越しをしていました。いつか、必ず『さようなら』をいうときがくる。だから、『いま』を最大限に楽しもう、と自然に考えるようになりましたね。父と母を見送り、いまは夫婦ふたりで過ごしたり、孫とおしゃべりしたり。この食卓が、私の『いま』を支えてくれている気がします」
おまけの一脚
ようやく見つけた、テーブルと椅子|「LIFE」「LIFE son」オーナーシェフ 相場正一郎さん・千恵さんへ⇒
<撮影/尾嶝 太 取材・文/一田憲子>
東川則子(ひがしかわ・のりこ)
結婚後、40代で、千葉県でアートや器などを取り扱うギャラリーを主宰。自身も陶芸で作品づくりを始める。50代になって、サーフィン好きのご主人の希望で鎌倉に移住。いまでは、不定期でパティシエ・田中玲子さんのお菓子を味わえる「カフェ トロワ」をオープン。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです