• ページの上でなめらかにペンが進むのは、上質な紙と罫引き、製本の技術がそろってこそ。ツバメノートが守りつづける信念を追いました。
    ※ 写真について:ツバメノートの顔ともいえる、B5判サイズで横罫線のノート。三代目社長直筆の題字は、万年筆で。罫線の上にインクがのっても、弾かず、にじみもなく、裏写りもなし
    (『天然生活』2017年2月号掲載)

    海外に負けない最高のノートをつくりたい

    ぱらりと表紙をめくった裏には、こんな言葉が書かれています。

    「かたくなに本物・良い品の追求をしています」

    ツバメノートの品質のよさは、この宣言どおり。紙は目にやさしい自然な白色で、裏写りなし。罫線は紙によくなじみ、ペン先がひっかからず、なめらかな書き味。糸でしっかりとかがった製本だからこその丈夫さ。

    すべては、創業者である渡邉初三郎氏の「海外に負けない最高のノートをつくりたい」という想いから生まれました。

    喜ばれる、親しまれるノートをつくる

    「戦前は文房具の卸業をしていましたが、戦争で全部焼けてしまって。そのころ、ちょうど海外から入ってきたノートの品質のよさに驚いて、日本でもインクをしっかり吸い取る書きやすいノートをつくってみようと考えたそうです」と三代目社長の渡邉精二さんは話します。

    画像: 三代目社長の渡邉精二さん。大学卒業後、新商品開発の仕事に

    三代目社長の渡邉精二さん。大学卒業後、新商品開発の仕事に

    昭和22年、まずは上質紙を使ったノートの販売からスタート。のちに、もっと書きやすいノートをつくりたいという思いから、オリジナル紙「ツバメ中性紙フールス」を開発。なめらかで書き味抜群のノートが誕生しました。

    画像: フールス紙の証としてツバメの透かし模様が入った、開発当初の紙

    フールス紙の証としてツバメの透かし模様が入った、開発当初の紙

    ここで少し疑問に思うのが、「ツバメノート」の名前の由来。創業当時の社名は「渡邉初三郎商店」でした。「ツバメ」は創業者の氏名でもなければ、紙やノートにゆかりのある鳥でもありません。

    「当時、『燕』という名字の営業社員がいたんです。お客さまから慕われていて、いつも『燕さんのノートをください』といわれて。そこまで親しまれているなら、ノートの名前にしよう、と」

    その後、社名も「ツバメノート株式会社」に変更。それほどまでに、初三郎氏は、お客さまに親しまれることを大切にしていたといいます。

    「いつも『お客さまに喜ばれるものを』といっている人でした。それは私も大事にしていることです」

    画像: Wは「渡邉」、Hは「初三郎」。創業者の名がノートの背クロス部に

    Wは「渡邉」、Hは「初三郎」。創業者の名がノートの背クロス部に

    売り上げが落ちても安売りはしない

    他にはないノートを開発したあとは、商品のサイズやデザインの幅を広げ、順調に売り上げを伸ばしつづけます。ところが。

    「バブルのころは、大変でした」と精二さん。好景気で売り上げは上がったのではないかと思いきや、ツバメノートは違ったといいます。市場では、とにかく安く、量を売るために、ノートのセット販売を始めるメーカーが増えました。

    「絶対にセット販売はしない、というのがツバメノートの誇りでした。売り上げが落ちても、品質や価格を下げずに、一冊一冊、大切に売る姿勢を崩さなかったんです。安ければいいわけじゃない、うちは品質で勝負しているんだ、と。初三郎は、信念の強い人でした」

    売り上げが落ちつつも、なんとか持ちこたえたのは、買い支えてくれるファンがいたから。「ツバメノートじゃないとダメだ、と買いつづけてくださるお客さまがいる限り、私たちが守ってきた製作や販売の方法を変えてはいけないんだな、と実感しました」

    バブル崩壊後、ツバメノートの売り上げは復活。質のいいものを求める人が増えたことだけでなく、ジャパンメイドの良質なノートとして海外から注目されたこと、企業やアーティストとのコラボレーションの機会が増えたことも、後押しになりました。

    信念を守りつつ、新たな挑戦も

    さらに、品質を守りながら、新商品を開発することも怠りませんでした。家計簿や帳簿として使える「統計ノート」や、英字練習用の「英習帳」、小ぶりの正方形や、大きなB4判のノート。さらには、ダンスの練習内容を書き込む「ダンスノート」や、あえて罫線を斜めにした「まっすぐノート」といったユニークな商品もそろいます。

    画像: 「まっすぐノート」は、斜めに文字を書いてしまう社員を見て得た着想。社交ダンスや俳句が趣味という、精二社長ならではの商品もある

    「まっすぐノート」は、斜めに文字を書いてしまう社員を見て得た着想。社交ダンスや俳句が趣味という、精二社長ならではの商品もある

    「たくさんは売れなくても、一部の人にとても必要とされるノートもあります。喜んでもらえるなら、つくりつづけますよ」と、みずから考案したノートをいとおしそうになでながら話す、精二さん。

    「でも、新商品を考えるだけじゃダメ。時間や手間を惜しまない製紙会社や職人あってこその品質ですし、それを守ることが大前提です」ともいいます。

    >> 次回は、ノートの書き味の核となる、罫線を引く工程を担う、「井口罫引所」を訪ねます。

    ツバメノートができるまで

    <写真提供/ツバメノート>

    製紙

    特製の「ツバメ中性紙フールス」。北海道・江別の製紙工場で春・秋の年に2回、つくられる。

    ↓ 井口罫引所へ。

    罫引き

    水性インクで罫線が引かれる。

    ↓ 荒川製本所へ。

    仕分け

    紙を数え、ノートの枚数ごとに束にする。表紙と合わせて重ねる。

    糸綴じ

    工業用足踏みミシンで、紙束を中綴じする。手作業にこだわるのは、保存性を高めるため。

    画像: 糸綴じ

    寝かせ

    綴じた紙束をノートの形に折り、形状を安定させるため半日~1日おく。

    クロス張り

    ノートの背に黒い紙(クロス)を張る。

    画像: クロス張り

    断裁

    ノートの形に断裁。ひと束で3冊分ができ上がる。

    画像: 断裁

    背見出し・金箔押し

    背に黄色のテープを張り、ツバメの刻印を押す。



    <撮影/寺澤太郎 取材・文/晴山香織 題字/渡邉精二(ツバメノ―ト三代目社長)>

    画像: 紙やノートを運搬するトラック。赤いツバメのロゴがトレードマークに。

    紙やノートを運搬するトラック。赤いツバメのロゴがトレードマークに。

    ツバメノート株式会社
    TEL.03-3862-8341
    http://www.tsubamenote.co.jp/

    ※ 渡邉精二さんは、2017年に逝去されました。

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです


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