あるだけで幸せ。思い出の道具たち

「これ、面白いでしょう？　ポップコーンをつくるためだけのお鍋なんです」。そのお鍋とは、（下の写真・14番）のハンドル付きのものです。

「アメリカで買ったものなんですが、子どもたちが小さいころはしょっちゅう、お世話になって。最近はもうすっかり大きくなったから、めったに使わないのだけど、なんだか捨てられなくて。大きいから場所ばかりとるのだけど」と笑います。

１　継ぎ目のない美しいレードルやへらなど。ドイツ製で、30年ほど前ひとそろいで購入
２　大きなガラス製の保存容器はアメリカ製
３　娘さんと息子さんがつくった木製のカトラリー
４　スープをつくる際に使用するガラスのジャー。油とスープが分離してスープだけを注げる仕組み
５　マッシュルーム形のスパイスミルや乳鉢、磁器の漏斗も思い出の品々
６　かごに目のない山下さん。こちらはマッシュルームが入って朝市で売られていたもの
７　お菓子の型なども。抜き型は数えきれないほど
８　バーベキュー用の串やアイスクリームサーバーは、いかにも外国といった風情
９　アメリカやフランスで出合ったものが多い。現役選手もあれば観賞用も
10　一番上のかごは、20年ほど前に友人からプレゼントされたもの
11　シンプルな鍋類はアメリカの「オールクラッド」のもの
12　やかんは「シンプレックス」を長年、愛用。こちらは二代目
13　「クーザンス」の鍋は直径16㎝をふたつ。在米中、日本から友人が送ってくれた
14　ポップコーンポッパーは、アメリカのウィリアムズソノマで購入
15　木のトングはアメリカ・マサチューセッツ州の郊外で見つけた。美しくて、むだのない形。子どもが使っていた、おままごと道具のめん棒
16　黒い柄の包丁は「ヘンケルス」
17　シンプルなつくりのジュースプレスもアメリカ時代に購入

25年ほど前、雑誌『オリーブ』のスタイリストとして活躍していた山下りかさん。仕事をいったんリセットして、渡米。結婚、出産を経て、ニューヨーク、サンフランシスコなどで暮らしました。その後、日本に戻り、現在は東京で暮らしていますが、そのころに手に入れた台所道具は（ポップコーンポッパー以外にも）、いまも山下さんのキッチンにあります。

「実は、使っていないようなものも多いのです。でも、あるだけで幸せな気分になれるから、なかなか手放せなくて。古いものに目がないので、古くて小さくて、かわいらしいものが多いですね」

写真の右下にある細かいものも、そう。とくに木と金属の組み合わせに弱いという山下さん。小さなピザカッターやケーキサーバー、ペラペラのアルミの軽量スプーンなどは、いまも現役で使う頻度の高いものたちです。ひとつひとつが小さく、まるで、おままごとの道具のようなかわいらしさ。

「おままごとといえば、このめん棒（下の写真・15番）や木製のカッター（下の写真・９番付近のもの）は、元は子どもたちがおままごとに使っていたおもちゃ。私がお菓子をつくっていると子どもたちがこれを持って手伝いにくるんです。いつからか、そのおもちゃは台所にしまわれるようになって、今日にいたっていますね」

ひとつひとつの台所道具を手に取り、出合ったときのエピソードや、その道具を使ってつくる料理について、ていねいに話してくださった山下さん。暮らす場所やキッチンの姿形は違っても、台所道具を愛する気持ちは変わらずに。大好きな道具に囲まれて料理をする幸福感は、キッチンの主だけが得られる特権なのだと、改めて教えてもらいました。

山下さんの台所道具

＜撮影／有賀 傑　構成・文／結城 歩＞

山下りか（やました・りか）
art of life　生活家（うたとライアー、てしごと）。スタイリストの仕事を経て渡米。NY〜SFに約8年間滞在。二人の子どもを授かり、ともに育つ中で日々の生活の大切さに気づく。
うたとライアー、そして、てしごとをとおして、日々活動中。
instagram: rystimmung

※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです