(横山タカ子・著『信州四季暮し』より)
信州で食物が収穫できるのは、半年間だけです。それだけに、採れたものを大切に保存し、飽きずに食べまわす知恵が備わったのでしょう。米、豆類はもちろんのこと、秋の野菜も越冬野菜として、しっかり年越しし、お彼岸ころまで食べるので、困ることはありません。
ことに野菜の保存方法は漬物で、たくさん発酵食品にします。野沢菜漬け、たくあん、すんき漬けなどは代表的なもので、三度三度の食事と農閑期のお茶請けに欠かせません。食物繊維たっぷりの発酵食品を食べて長寿になっているのでしょうね。
調味料も、ぬかに塩、味噌、酒粕にしょうゆ、糀に三五八(さごはち)とさまざまで、ひとつの野菜でもいろいろな味で愉しむことができます。お餅を凍り餅にするなどの、寒さを利用しての保存食作りも欠かすことのできない作業です。我が家ではもっぱら寒干しの大根干しですね。寒中の干し大根は白く、カラッとした出来栄えです。
ちなみに、長野ではよく見かける寒ざらし粉はお米を干したもので、虫が付かず、高級品とされています。寒中でも、信州は忙しいですね。
たくあん漬け
材料(作りやすい分量)
● 大根 | 8kg |
● 紅芯大根、からいも | 合わせて2kg |
● 漬け床 | |
・生ぬか | 2kg |
・塩 | 800g |
・砂糖 | 1.5kg |
・渋柿の皮(干したもの) | 200g |
・なすの皮(干したもの) | 150g |
・赤唐辛子 | 15g |
作り方
1 大根、紅芯大根、からいもは、1週間ほど干す。
2 大きなビニール袋や器に、漬け床の材料を入れ、混ぜ合わせる。
3 漬物容器の底から1cmくらいまで、2を振り入れてから、大根、紅芯大根、からいもとぬかを交互に入れ、野菜の重量の2〜3倍の重石をする。
4 3日で水が上がりはじめる。食べ頃は約1カ月後から。
松前漬け
材料(作りやすい分量)
● 大根 | 1kg |
● 塩 | 大根の重量の2% |
● A | |
・しょうゆ | 80ml |
・みりん | 60ml |
・砂糖 | 20g |
・するめ(極細のもの) | 45g |
・切り昆布 | 35g |
作り方
大根はいちょう切りにし、塩をして2時間ほどおく。水分をよく絞り、容器にAとともに入れて漬ける。翌日から食べられる。
*冷暗所か冷蔵庫で2週間ほど保存可能。
<撮影/本間 寛>
横山タカ子(よこやま・たかこ)
料理研究家。長野県大町市生まれ、長野市在住。長年、保存食を中心とした長野の食文化を研究すべく各地に赴き、料理名人から教わる。長野県の特徴でもある、野菜をたっぷりと使った保存食は「適塩」で作り、季節の食材は手をかけすぎず、素材を生かしてシンプルに食べることを信条とする。地元の農作物を広める活動にも尽力。大の着物好きでもある。