写真について:雛祭りの室礼の一例。男雛と女雛の人形を用意して壁に飾り、お祝いの象徴とされる桃の花を添えて。下には色とりどりのあられで川を表現している
(『天然生活』2017年3月号掲載)
雛祭りの室礼
雛祭りは、女の子のすこやかな成長を願う年中行事。「雛」とは「ひいな」、小さくてかわいいものをさす言葉といわれています。女の子がいる家庭ならば、三月三日を迎える前に、家族で雛人形を飾りつける方も多いでしょう。
「もともとは、3月の最初の巳の日に川に入って体の穢れを払うという古代中国の儀式がルーツです。それが日本に伝わり、自分が水に入るのではなく、人形に疫病や穢れ、災いを移して海や川に流す風習になりました。これが、いわゆる “流し雛” です」
雛祭りの室礼では、このような流し雛をテーマにして盛ることも多いのだそう。邪気を払い縁起物とされる桃の木、厄よけの意味をもつ赤色の緋毛氈(ひもうせん)、男雛と女雛の人形、あられや貝類などの縁起物を用いて、自由な発想で表現することが室礼になります。
「直会は、ぜひ、お雛さまと一緒に。その際、段飾りのお道具のなかにも食事を盛ってみてください。手まり寿司や、はまぐりのお吸い物など人間が食べるものを少しだけ。それだけで、とても楽しく、豊かな気持ちになりますから」
雛祭りを語るもの
桃の花
「桃の節句」には欠かせない、雛祭りを代表する植物。邪気を払い、お祝いする花として知られる。
人形(ひとがた)
「にんぎょう」という言葉の由来。昔の人は草や紙で人形をつくり、厄や穢れを負わせて川に流した。
菱餅
3色の餅を菱形に切って重ねたもの。桃色は魔よけ、白は清浄、よもぎの緑は健康や長寿を意味する。
はまぐり
対の貝殻でなければぴたりと合わないことから、女性の貞操観念を表す。純潔という意味ももつ。
さざえ
「三三栄」の漢字を当てて、三月三日を表す縁起物。突起がある姿から、男性の象徴ともされる。
あられ
雛祭りを代表する和菓子。昔は米飯のおこげを洗ってつくり、子どもに倹約を教える意味もあった。
緋毛氈(ひもうせん)
雛人形を飾るときに敷く布のこと。赤は一般的に女性の色であり、血の色。魔よけの色ともいわれる。
<イラスト/松尾ミユキ 取材・文/大野麻里>
山本三千子(やまもと・みちこ)
新潟県出身。室礼の教室「室礼三千(しつらいさんぜん)」主宰。南宗瓶華四世、故・田川松雨氏に師事。数々のカルチャースクールで講師を歴任。著書に『暮らしの室礼十二か月』(淡交社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです