自然に感謝を捧げ、祖先を敬い、家族の成長を願う年中行事。そのなかでもとくに華やかな「桃の節句」は、絵本作家でイラストレーターの堀川波さんも大好きだそう。自分なりの「型」をつくって、お祝いをしています。今回は、伊豆・稲取に伝わる「吊るし雛」のつくり方を教わりに、現地に伺いました。
(『天然生活』2018年3月号掲載)
吊るし雛の里・伊豆稲取を訪ねて
娘が健康で、幸せでありますように。そんな願いを小さな人形のひとつひとつに込め、吊るしたお雛さまです。
猿は、厄がさる(去る)ように、唐辛子は、悪い虫がつかないように。おめでたいもの、縁起物、あやかりたいと思うもの。
さまざまな飾り物に意味を込め、着物のはぎれを縫い、綿を入れた布細工を雛段の両脇に吊るしたのが原点といわれています。
娘の幸せを願う親の気持ちが詰まったかわいらしい飾りで、堀川さんもずっと気になっていました。今日は、つくり方を教わりに、伊豆稲取を訪問。
今回、指導してくれたのは「絹の会」主宰の森幸枝さん。講習会を開いたり資材の販売をしたり、吊るし雛の普及に努めています。
堀川さんは、講習を受けながら、気になっていたことを相談しました。
「赤と白、2色のみで吊るし雛をつくってみたいと思っているんですが、それは邪道ですか?」
すると森さんは、にっこり。
「こうしなきゃいけないという決まりはないんです。こうしたらかわいいかな、これにも思いが込められるかな、と自由につくれる。算数みたいに答えがひとつじゃないところが私も大好きなんです」
伊豆から帰って数日後、堀川さんは、ふたつの吊るし飾りをつくりました。素材はリネン。色は赤と白の2色のみ。鉄製のキューブフレームに吊るします。
「わが家のインテリアになじむ、私らしい飾りができました」
雛祭りのごちそう膳
吊るしの雛飾りも増え、堀川さんの家では雛祭りムードが高まっています。フィナーレは3月3日の祝いの膳。
決まってつくるのは、ひし形にかたどった3色のお寿司に、はまぐり、手毬麩を入れたお吸いもの。
「お寿司は菱餅に由来していますが、白、緑、ピンクの3色には意味があるんですよ。白い雪が解けて、草が生えて、やがて花が咲く……」
昔からの習わしにはひとつひとつ意味があり、そういうところに心動かされる、と堀川さん。端午の節句には柏餅を食べ、七夕には笹の葉を飾り、暦に近い暮らしを楽しんでいます。
「新興住宅地育ちで、伝統とは遠かった子ども時代。だからこそ、昔ながらの風習やしきたりに憧れが強いんだと思います。いろいろな縁起を担いだり、自己流にアレンジしたり、本来とは違うところもあるかと思いますが、自分が楽しいと思うのが一番かな」
<撮影/萬田康文、和田真典(プロフィール写真) 構成・文/鈴木麻子>
堀川 波(ほりかわ・なみ)
大阪芸術大学卒業。おもちゃメーカー開発部勤務を経て、絵本作家・イラストレーターに。布小物の制作やデザインなども手がけ、籐でつくるアクセサリーのワークショップなども開催している。著書は『48歳からの毎日を楽しくするおしゃれ』(エクスナレッジ)、『かわいい背守り刺繍』『リネンで作る、つるし飾り』(ともに誠文堂新光社)など多数。
インスタグラム @horikawa.nami
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです