“ゆっくりじっくり発酵”がおいしさの秘密
浅草の浅草寺を抜けた先にある、観音裏と呼ばれる閑静な一角に、自家製酵母のパン屋さん「粉花(このはな)」はあります。2008年のオープンから12年目を迎えたいまも、地元の人はもちろん多くのパン好きから絶大な人気を誇るお店です。
開店前に訪れると鼻孔をくすぐるのは、パンを焼き上げるなんともいいい香り。店内には古い木材でできた趣のある棚やショーケースが置かれ、ほっと和める空間が広がっていました。

自然素材を基調としたインテリアがおしゃれ。使い勝手がいいようにと、オープン以来、時折手を加えてきた

パンや焼き菓子など20種類ほどを毎日焼き上げる。パンの種類が最も多く揃うのは11時頃。土曜はお昼過ぎに完売してしまうこともあるそう
店を営むのは、ふたり姉妹の藤岡真由美さんと恵さん。真由美さんがパンとお菓子づくりを担当し、恵さんがカフェ(不定期営業)のドリンク提供や販売をこなしますが、お互いの仕事を手伝いながら、二人三脚で店を切り盛りしています。

写真手前が妹の恵さん、奥が姉の真由美さん。やさしくていねいなお客さんとのやり取りも粉花の魅力

焼き菓子は季節替わり。素材の味が際立ち、どれもはっとするおいしさ
オーガニックレーズンと水だけで育てた酵母を使い、北海道産小麦「春よ恋」でパンを焼くスタイルは、オープン当初からずっと変わらないまま。ほかにも、粟國の塩、喜界島のきび糖など、「できるだけ近くでとれたもの、安全に食べられるもの、おいしいもの」という視点で選び抜いた食材を使い続けています。
酵母をパン種にする中種法ではなく、ストレート法といって酵母を液体のまま生地に練り込んでパンを焼き上げるスタイルをとるのも、こだわりのひとつ。ストレート法ではゆっくりと発酵が進み、パンに酵母のフレーバーがのりやすく、おいしいパンに仕上がるのだそう。
厳選した材料を使って、手間ひまを惜しまずつくられた粉花のパン。早速いただいてみると、どれも粉の滋味が口いっぱいに広がり、やさしい味わいのなかにも素材の味が生きていました。シンプルなのに鮮烈、そんなパンです。
一番人気の「丸パン」は、お店の象徴的な存在。外はカリッ、中はしっとりもっちりとした口触りで柔らかく、そのうえ粉の風味が溢れんばかりに詰まっています。何個食べても飽きないおいしさで、小さなお子さんからお年寄りまで人気というのも納得。

「丸パン」は食パンと同じ生地を丸く焼いたもの。乳製品と相性がよく、アイスをのせて食べたり、グラタンなどのお料理に合わせる人も。サンドイッチにもぴったり

ベーグル目当てで訪れる人もいるというほど、ベーグルも人気。むっちりした生地から、小麦のいい香りが漂う
ほかにも、おふたりがおすすめする人気パンをご紹介します。
真由美さんが「私が一番焼きたいパンで、みなさんにも食べてもらいたいパン」という「カンパーニュ」は、小麦と酵母と塩だけを使った店一番のシンプルなパン。石臼挽きの全粒粉を使った生地は粉の風味が強く、ほどよい酸味と塩気が感じられます。「精肉店を営む友人が、お肉料理にもとてもよく合うといってくれます」と真由美さん。

カンパーニュ
全粒粉を多めに配合した「全粒粉のスコーン」は、ザクザクした食感が心地いいひと品。グラスフェッドの牛から搾った格別な味わいの「山地(やまち)酪農牛乳」が使われていて、牛乳のコクとまろやかな甘みが後を引くおいしさです。
ベーグルの中で一番の人気は、サンマスカットという品種のレーズンを練り込んだ「マスカットベーグル」。ムギュっと詰まった生地にマスカットレーズンの爽やかな甘みがアクセントを添えています。

写真左が「マスカットベーグル」、右が「全粒粉のスコーン」
「くるみマロン」は、イタリア産のマロングラッセとフランス産のクルミをたっぷり包み込んだ贅沢なパン。ごろごろ入った大粒のマロングラッセの甘みを、粉と酵母と塩だけでできたハード系のシンプルな生地が引き立てています。

写真左が「くるみマロン」(右は「丸パン」)
「大事に育てられた素材を、大事にパンにして、大事に食べてもらえたら」と話す真由美さん。そんな想いが詰まった粉花のパンは、一口頬張るとやさしく心に響くよう。そんな温かなパンに出合いに、ぜひ足を運んでみてください。

愛らしいスワッグが壁を彩る。姉妹のご友人の花屋さんが「『粉花』らしいもの、季節に合ったもの」を拵えてくれるのだそう

<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
粉花(このはな)
03-3874-7302
10:30~売り切れまで(カフェは不定期)
日・月・火・祝日休み
東京都台東区浅草3-25-6 1F
最寄り駅:地下鉄・つくばEXP「浅草駅」