
多様な文化が混ざり合うメキシコのなかでも、先住民たちの姿が多く見られる街のひとつと言われるサン・クリストバル・デ・ラス・カサス。旅情あふれる街並みには教会以外の高い建物はなく、抜けるような青空と美しい山々が印象的。多くの旅行者でにぎわうのも頷けます
鮮やかな色合いの家々が連なり、細い歩道をすれ違う人とも自然と「Hola!」と挨拶を交わし合うこの街。メキシコ初心者の私でさえなぜか「メキシコ的!」と感じてしまう、素朴でほがらかな空気がとても魅力的な場所です。
そして、周囲の村々も含めて先住民族が多く暮らし、訪れるこの街にもまた、メキシコシティ同様さまざまな民芸品が集まってきていました。なかでもとくに私が気になったのは、竹やひょうたんなど、天然素材を使った生活道具たち。素朴な形、使いやすくしっかりとした作りであることはもちろん、これらが今もなお現役選手として人々に使われていることが、なにより愛おしく大切に思えたのです。

竹かごはサンクリで、ひょうたんの容器はサンクリ近郊の村サン・ファン・チャムラで購入。大小様々なかたちの竹かごには、パンを入れたり売り物のお土産物を入れて運んだり、市場の陳列容器にも使われていました

山と積まれたフルーツ屋さんの店先にも竹かごが。市場の陳列は、かつて訪れたモロッコのそれにも似ていて、どこも華やかで美しく眺めていても飽きることがありません

くらちゃんのおすすめにより、レストランでオーダーしてびっくり! 「ポソル」という古代マヤから伝わる飲み物(トウモロコシとカカオを混ぜたもの)は、「ヒカラ」と呼ばれる木の実の器に入って出てきました。ひょうたんだと思ったら、ヒカロという植物の実を乾かしたものだそう。これも天然素材の生活道具です
そして、この街の民芸品市場ではとくに、たくさんの種類の刺繍が集まっているように感じました。お客さまと店主の間で交わされている、こんな言葉が耳に入ってきます。
「アマノ? マキナ?」
「アマノ、アマノ」
のちにくらちゃんに聞くと、アマノ(a mano)とは「手で」、という意味。逆にマキナ(Máquina)とはマシーン、つまり「機械」という意味。今、伝統的な手仕事の民芸品に混じり、機械刺繍のものが増えているため、皆手仕事であるかどうかを確認しているのだそうです。

道端で見つけて、思わず釘付けになった自転車がこちら。サンクリ名物?の竹かごに、色鮮やかなマクラメ編みの飾りが巻かれた、なんともこの土地らしいデコレーション! 拍手を送りたい、素敵な手仕事です

ちょっと毛色は違いますがぜひ見ていただきたかった! 「チムネア」と呼ばれる、メキシコの薪ストーブです。さくらももこさんの漫画に出てきそうな顔がついているのは、火の守り神なのでしょうか。愛らしすぎて一瞬、「買って帰れないだろうか……」と考えたほどです(笑)
もちろん、市場での買い物では値段交渉の会話も交わされます。私も何度か、お願いして値引きをしてもらいました。けれど、くらちゃんを見ているとよっぽどのことがない限り、値引きの交渉をしているようすがありません。
「“フェアトレード”って、どう思う?」
あるときふと、くらちゃんに聞いてみました。すると彼女はすぐにこう答えてくれました。
「できるだけ、作っている本人らしき人から買うこと。相場を知って、お互いが気持ちよく売り買いできる値段で買うこと。国をまたいだ貿易はわからないけれど、私はこの国ではできるだけそういう買い物を心がけているよ」
それは、もともとアクセサリー製作と販売で身を立ててきた彼女らしい、経験と思想が合わさったとても素敵な答えだと思いました。

玉木美企子(たまき・みきこ)
農、食、暮らし、子どもを主なテーマに活動するフリーライター。現在の暮らしの拠点である南信州で、日本ミツバチの養蜂を行う「養蜂女子部」の一面も
<撮影/佐々木健太(プロフィール写真)>