東京郊外に生まれ、南信州に暮らすライター・玉木美企子の日々を綴る連載コラム。村での季節のしごとや、街で出会えたひとやできごと、ときどきでかける旅のことも気ままにお伝えします。今回は、旅の後半に出合った、天然素材の生活道具についての話題をお伝えします。
前回はメキシコシティで見つけた民芸品のことをお伝えしましたが、今回は旅の後半をすごした、サン・クリストバル・デ・ラス・カサス(以下、サンクリ)での話題を。サンクリは、メキシコシティから飛行機で1時間30分、夜行バスなら約13時間の距離にある、南部チアパス州の小都市です。ここに、私の友人くらみさこさん(くらちゃん)は暮らしています。
鮮やかな色合いの家々が連なり、細い歩道をすれ違う人とも自然と「Hola!」と挨拶を交わし合うこの街。メキシコ初心者の私でさえなぜか「メキシコ的!」と感じてしまう、素朴でほがらかな空気がとても魅力的な場所です。
そして、周囲の村々も含めて先住民族が多く暮らし、訪れるこの街にもまた、メキシコシティ同様さまざまな民芸品が集まってきていました。なかでもとくに私が気になったのは、竹やひょうたんなど、天然素材を使った生活道具たち。素朴な形、使いやすくしっかりとした作りであることはもちろん、これらが今もなお現役選手として人々に使われていることが、なにより愛おしく大切に思えたのです。
そして、この街の民芸品市場ではとくに、たくさんの種類の刺繍が集まっているように感じました。お客さまと店主の間で交わされている、こんな言葉が耳に入ってきます。
「アマノ? マキナ?」
「アマノ、アマノ」
のちにくらちゃんに聞くと、アマノ(a mano)とは「手で」、という意味。逆にマキナ(Máquina)とはマシーン、つまり「機械」という意味。今、伝統的な手仕事の民芸品に混じり、機械刺繍のものが増えているため、皆手仕事であるかどうかを確認しているのだそうです。
もちろん、市場での買い物では値段交渉の会話も交わされます。私も何度か、お願いして値引きをしてもらいました。けれど、くらちゃんを見ているとよっぽどのことがない限り、値引きの交渉をしているようすがありません。
「“フェアトレード”って、どう思う?」
あるときふと、くらちゃんに聞いてみました。すると彼女はすぐにこう答えてくれました。
「できるだけ、作っている本人らしき人から買うこと。相場を知って、お互いが気持ちよく売り買いできる値段で買うこと。国をまたいだ貿易はわからないけれど、私はこの国ではできるだけそういう買い物を心がけているよ」
それは、もともとアクセサリー製作と販売で身を立ててきた彼女らしい、経験と思想が合わさったとても素敵な答えだと思いました。
話は尽きませんが、今日はここまで。次回はメキシコ旅のまとめとして、暮らしのなかで感じたあれこれについてお伝えできればと思います。
玉木美企子(たまき・みきこ)
農、食、暮らし、子どもを主なテーマに活動するフリーライター。現在の暮らしの拠点である南信州で、日本ミツバチの養蜂を行う「養蜂女子部」の一面も
<撮影/佐々木健太(プロフィール写真)>