暑い真夏の昼下がり。一本の電話。
出てみると、久々にある編集者からの電話だった。懐かしく、仕事の話をした、その後。また電話のベル。たった今終えたのに、何か言い忘れたのかと、受話器を取り上げた。
すると、見知らぬ、区役所の川上と言うものだが、「昨年度の医療に関する法律改正があり、医療費の36,180円が戻るので、申請手続きの手紙を送ってある。締め切りを過ぎても返事がない。今なら、銀行と連携して申請手続きを受け付けているが、どうされますか?」と問われる。
瞬時、「えっ、法改正? 消費生活アドバイザーの私が知らない、恥ずかしい!」さらに心の声が響く。「36,180円、鰻が食べられる」。恥ずかしさと嬉しさで、思考停止状態に。「申請手続きします!」と叫んでいた。
その後、担当の銀行員、手続き誘導銀行員と名乗る二人の言葉巧みな操作に操られるまま、ATMに飛んで行き、言われるがまま、自分の口座にあるお金を、全部見知らぬ口座に振り込んだ。終了後にも、詐欺だったと露ほども思わず。
翌日、実際に愛媛の蒲鉾屋さんへの振り込みで、口座残高がマイナスになって初めて、詐欺被害にあったことを悟り、真っ青! だが、失ったお金は、絶対に戻ってはこない!
ほんの少しの欲に負け、一瞬で貯めたお金を失った。
自分で蒔いた種。気持ちを切り替えるに限る! と、すぐに諦めた。
(後日、福生警察署より、口座から引き出した犯人が逮捕されたとの報告あり。ちょっぴり留飲が下がる)
<文/阿部絢子 イラスト/北村人>
阿部絢子(あべ・あやこ)
生活研究家。消費生活アドバイザー。「万人が家事を科学的に効率よくスムーズにこなすには?」を研究、提唱し続ける。『老親の家を片づける ついでにわが家も片づける』『老いのシンプル節約生活』(ともに大和書房)、『ひとり暮らしのシンプル家事』(海竜社)など多数。