染めることでまた、愛しくなる
大島紬発祥の地と言われる奄美大島北部・龍郷町。ここで古くから大島紬の絹糸を染める染色工房を営んできた金井工芸では、約20年前からこの伝統技法を一般の方にも親しんでもらおうと、染色の体験を受け入れています。
菓子研究家・長田佳子さんが工房を訪ねるのは3回目。「染めることで、これまでとは違った美しさが現れ、また大切にしたいという気持ちが芽生えるのがうれしくて」と、この日も長年愛用してきたストールやワンピースを持参しました。
金井工芸の染色体験では、奄美特有の伝統的な染色方法である「泥染め」の技術も生かしながら、藍色やグレー、ピンクなど、染め上がりの色が選べるよう工夫されています。
この日、長田さんが選んだのは、「藍泥(あいどろ)」。まず藍で染色したのち、奄美大島に自生する車輪梅(しゃりんばい)という常緑樹の染料と奄美の泥で染め上げる、金井工芸独特の染色方法です。
染色をもっと身近に
教えてくださるのは、金井工房の若き担い手である金井志人(ゆきひと)さん。音楽業界という異業種に身を置いていた金井さんは、伝統を守りながらも染色の可能性や楽しさを伝える数々の取り組みを行っています。
「染色というと難しく感じるかもしれませんが、今のように強い洗剤がなかった時代には、むしろこうして汚れを落とすよりも染めることで服を蘇らせていたと思うんです。『きれいに汚す』というイメージで、子どもの泥遊びのように気軽に楽しんでいただけたら」
そう話す金井さんの指導のもと、早速とりかかります。
1 水にさらした布を藍で染める
染めムラがないように、ゆっくりていねいに
2 脱水したら一度干して空気に触れさせる
色濃く染め上げたいときには、この工程を何度も繰り返します
3 クエン酸水で藍色を定着させたのち、車輪梅の染料で色を重ねる
地元で「テーチ木」と呼ばれる車輪梅は、タンニンを多く含む赤色の染料
4 泥田に布を浸し、「泥染め」を仕上げる
車輪梅の染料に含まれるタンニンと、奄美の泥に豊富に含まれる鉄分が化学反応を起こすことで染め上がります
5 泥を落として、完成
泥染めならではの、渋みのある色合いになりました
変化する色も楽しみのうち
約2時間かけて、すっかり染め上がった服やストールたち。生まれ変わった姿で奄美の風に吹かれ、なんだか心地よさそうです。
「『白いものは汚れたら漂白して』という考えに慣れていた私にとって、泥染めは新鮮な驚きに満ちた世界で。着るうちに変化する色の様子を見るのも楽しみになりました」
そう話す長田さんに、
「染色することで、色が入ると同時に繊維も強くなるので、さらに長く着ていただけると思います」
と金井さん。
天然素材であればほとんど問題なく染まるため、体験ではTシャツやハンカチなどだけでなく、スニーカーを持ち込む人もいるそう。持ち込むものがない場合にも、工房でエコバッグなど染色用の布製品が購入可能です。
「染色を目的にした奄美の旅も素敵ですね。私も島に来たら必ず立ち寄りたい場所の一つになりました」
金井工芸
鹿児島県大島郡龍郷町戸口2205-1
TEL.0997-62-3428(要予約)
営業時間:10:00~17:00(体験開始時間10:00、13:00)
休:日曜、年末年始、お盆
<撮影/田尾沙織 取材・文/玉木美企子>
長田佳子(おさだ・かこ)
菓子研究家。素材とそのつくり手に思いを馳せてつくるお菓子は、すっと体になじむようなやさしい味わい。生産の現場に足を運ぶことも多い。近著に『全粒粉が 香る軽やかなお菓子』(文化出版局)など。