新型コロナウイルス感染症の流行により、世界中であたりまえの日常が奪われ、多くの方が病の床に伏し、大きな不安が暗雲のように立ち込めています。亡くなられた方々のご冥福と、感染された方の1日も早い回復を心よりお祈りするとともに、医療現場にて治療や検査等に従事されご尽力くださっている皆様に、深く感謝を申し上げます。
あらゆる情報を瞬時に目にすることができるいま、日々の行動変容や予防方法の周知に役立つという利点もある一方で、背負いきれないほどの情報の渦の中、ストレスを感じている方も多いのではないでしょうか。
こんなとき、どのような話題なら多くのみなさんと少しでもホッとする時間を分かち合えるだろう……。そう思ったとき、私の膝に乗ってきてくれる猫たちのことを思いました。今日は、猫が来た一年のことをお話できればと思います。
二匹の猫、クロとフネが我が家に来てくれて、もうすぐ一年が経とうとしています。二匹の猫との出逢い、それは運命の巡り合わせのようなタイミングでした。
我が家の二人の子が小学校にあがり、子育てにも少し余裕が出てきたころ、「そろそろ猫が飼えたらな……」と、インターネットにて保護猫の情報などを検索していました。地域の保健所に行ってみようかな、そんな計画を立てようとしていたある日、近所でお世話になっている方から、「猫、いらん?」と電話があったのです。
驚いて事情を聞くと、家の軒下で野良猫の子が生まれたとのこと。驚くようなこの展開になんだかドキドキして、早速子どもたちと様子を見に行くことにしました。
歩いて数分のところにあるお宅へ行くと、広いお庭の片隅で二匹の子猫たちがミーミーと愛らしい鳴き声をあげていました。その姿に子どもたち、「連れて帰る!」とすっかりその気に。でも、まだ生まれたてすぎるからと、固形物を食べ始める1ヶ月後に二匹を迎え入れることを決めました。
じつは、猫を飼う=一匹を想定していたので、二匹と聞いたときはうーん・・・と悩みました。けれどさいわい、わが家は田舎の平屋のため、猫たちがくつろげる場所は確保できるだろうと考え、二匹とも受け入れることに。
もちろん、食べるエサも多くなりますし、予防接種も不妊・去勢手術も二匹分です。トイレのケアも含めお世話の手は倍かかりますが、二匹が寄り添って寝ている姿や、毛づくろいをし合っている姿を見ていると、やっぱり二匹で来られてよかったね、そう改めて思います。
最初は壊れてしまいそうに小さかった猫たち。朝起きてすぐに元気かどうか、確認しに行くほど心配しながら育てました。おかげさまで、小さな頃に少し下痢をした(寄生虫のしわざとわかり、すぐに退治してもらいました)ほかは、大きな病気もケガもなく元気に育ってくれています。
実家で飼っていた「ミー」を見送って以来、約20年ぶりにはじまった、猫との暮らし。もちろん、大切なグラスを割られてしまったり、あらぬところで爪とぎをしたり、マーキングをしたり……と、嵐のようなやんちゃぶりに悩まされることもありますが、それでも心満たされる時間のほうを、彼らからたくさん与えてもらっていると日々、実感しています。
猫との暮らしは、そう、自然と暮らす、という感覚に近いかもしれません。
決して思い通りにはならない、ままならぬもの。でもハッとするほど美しく、深い安らぎを与えてくれるもの──。
彼らへの愛と感謝は、日に日に深まっていきます。
玉木美企子(たまき・みきこ)
農、食、暮らし、子どもを主なテーマに活動するフリーライター。現在の暮らしの拠点である南信州で、日本ミツバチの養蜂を行う「養蜂女子部」の一面も
<撮影/佐々木健太(プロフィール写真)>