出かけられない日々が続いていますが、今回は遠足やピクニックにかかせないお弁当をテーマにした絵本を選びました。いつものごはんをお弁当箱に詰めるだけでも気分転換になりますし、ベランダやお庭で食べても気持ちいいはず。少しでもお出かけ気分を味わえるように、絵本に出てくるようなお弁当作り、ぜひお試しあれ。
『おべんとう』(小西英子・作 福音館書店)
おべんとうばこ よういして
さあて なにから いれようか?
という一文から始まるこの絵本は、お弁当箱にごはんやおかずがひとつずつ、詰められる様子が描かれています。
お弁当箱は園児用でしょうか。プラスチックのような質感はどこか懐かしく、入るおかずも、あつあつミートボールに、ふんわりたまごやき、と定番中の定番。
シンプルな絵本ながら、長いあいだ愛されているのは、絵の巧みさと、リズミカルな文章にあるのでしょう。
おかずはいまにもいい匂いがしてきそうですし、ほかほか、ふんわり、ほっこり、ぱらぱら、などという表現と合わせて、お腹がぐぅーっと鳴りそうです。
家庭科の授業で初めて習うようなお料理が、丁寧につくられ、ひとつひとつ、きちんと詰められていくことに、なんだかほっとするのです。
『おべんとう だれと たべる?』(あずみ虫 作・絵 福音館書店)
おべんと おべんと くまさんの おべんとう
くまさんって、何を食べるんでしょうね。
どこで たべる? だれと たべる?
のはらでうさぎさんと食べることにしたようですよ。
つぎはおばあさん、柿のジャムをたっぷり塗ったスコーンを、ことりさんと公園で食べることにしました。
おつぎは、ねずみさんです。
みんな、どんなお弁当を作って、誰と食べるのでしょう。絵本に出てこない動物や人物に当てはめて、あれこれ想像するのも楽しい絵本です。
『3人のママと3つのおべんとう』(クク・チスン・作 斉藤真理子・訳 ブロンズ新社)
同じマンションに暮らす、3人のママが主人公です。いつもの朝がはじまりましたが、いつもと違うのは、子どもたちが遠足に出かける日だということ。
3人とも、朝から大忙しで、お弁当の準備をします。
会社で働くジソンさんは、仕事も家事も全部やりたいけれど、なかなかうまくいかないし、
画家のダヨンさんは、大事なことをカレンダーに書いておいても、しょっちゅう忘れてしまいます。
専業主婦のミヨンさんは、まいにちたくさんのことをしているのにときどき、なんにもしてないような気になってしまいます。
忙しくて、慌ただしくて、なんだか心が落ち着かない。やりたいことはおろか、やるべきこともできていない気がする。
結婚していてもいなくても、子どもがいてもいなくても、働いていてもいなくても、3人のママたちが抱えているような思いは、誰しも共感できるのではないでしょうか。
それでもラスト、ジソンさんもダヨンさんもミヨンさんも、気がつきます。
季節は巡り、美しい春がやってきたことに。
いま、みんなが不安な日々を過ごしていると思います。きちんとおいしいものを食べること、季節の移ろいに目を向けること、そして明るい光を探し続けること、そういうなんでもないことが大切かなと。絵本がその一助になればうれしいです。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>