(『天然生活』2016年5月号掲載)
家族の時間と、創作の時間、両方を大切にする段取りを
子どもを出産する前は「自分は夜型」だと思っていたという伊藤さん。二度塗りができない水彩画は、ひと筆ひと筆が真剣勝負。呼吸を整え、意識を集中させることが大切なので、かつては、周りが寝静まった深夜に筆を持つことも多かったといいます。
けれども、母となり、ふるさとの三重・伊賀に移り住んだことをきっかけに、自然豊かな周りの環境に合わせるかのように、いつしか「朝型」の暮らしに移っていきました。
「朝のすがすがしさやみずみずしさが、自分にとってのパワーの源であることがわかってきたんです。だから、『母親であること』を自分の真ん中に置きつつも、『どうしたら午前中のうちに筆が持てるか』を、自分なりに試行錯誤するようになりました」
その方法は、ひとつは前の晩に、可能な限り朝が楽になるような段取りをしておくこと。もうひとつは、必須と思われがちな家事をあえて朝のルーティンに組み込まないという方法です。
たとえば、洗濯物はどうしても「朝のうちに」と思いがちですが、家を建てたときにサンルームを設け、ガス乾燥機も導入して、「できるときにやる」というふうに気持ちを切り替えました。家の掃除も、「掃除機は毎朝かける」「ふき掃除は週に○回」といったルールはあえて決めず、「やりたいときにやればいい」と気楽にとらえるようにしたのです。
そして毎朝30分ほどの「調整の時間」を設け、「今日は棚の掃除」「今日は体のメンテナンス」というふうに、その日その日で、やることをフレキシブルに変えていきます。家事に縛られないことで、心にも余裕が生まれ、無理のないリズムが生まれるのです。
伊藤尚美さんの朝の時間割
6:45 起床、洗顔、身支度、リビングの窓を開けて換気、ご主人と子どもに、おはようのあいさつ
窓を開けて空気を通しおはようのあいさつ
2階にあるリビングに面した大きな窓は、朝日がさんさんと差し込む東向き。どんなに寒い日でも必ず開けて、部屋に風を通して、自分も一緒に深呼吸を。あいさつの大切さは、子どもに伝えたいことのひとつで、毎朝、気持ちよく「おはよう」と声をかけるように。
7:00 朝食・お弁当の支度
同時に進めて、効率よく。朝食・お弁当の支度
朝食と、旦那さま&子どものお弁当の支度は、常に同時進行。お弁当箱と器を同じ場所にセットし、15~20分で完成させる。
短時間調理の秘訣は、事前に仕込んでおいた「つくりおき」を賢く活用すること。そして、「切るだけ、ゆでるだけ」でも、おいしくて彩りになる食材を常にストック。「緑や赤の野菜は常に切らさないようにしています。お弁当にも便利だし、色の力で気分も上がります」
7:15 やかんに番茶の用意
7:20 朝食、食事の片づけ
8:15 子どもを幼稚園に送る
8:30 帰宅、日々の調整の時間(半身浴、植物の世話、家の掃除など)
心に余裕をもつための、調整時間
最近、半身浴によく使っている「無双本舗」の大根干葉(ひば)。鍋で煮出してから浴槽に入れるタイプで、体をしっかりと温める効果が。
幼稚園へ送り出してからアトリエに入るまでのおよそ30分は、あえてやることを決めず、体調に合わせてメンテナンスしたり、キッチンに花を飾ったりと気になることを行うように。新築時に設けたサンルームは、花粉症の時季にもありがたく、夕方や夜などにも活用できるので便利。
8:30 犬の散歩
9:00 アトリエへ移動
9:05 神棚に手を合わせる、アトリエの掃除
毎日、取り換える、水と榊(さかき)の水
自宅と同じ敷地内にあるアトリエ棟に移動し、部屋の中をほうきでさっと掃除したのち、2階にある神棚へ。「水と榊の水を取り替え、手を合わせることで、創作前の心と体をすきっと整えることができます」。仕事前に神棚に手を合わせるのは、もう10数年以上、続いている習慣。
9:10 自分用にお茶の準備
気持ちを切り替える、お茶
朝食時に家族と飲むお茶は、子どもも飲みやすい三年番茶で、アトリエで準備するお茶は、香りのよい中国茶やほうじ茶を。「香りでキリッとさせる効果がありますし、気合も入ります」。好きな茶器と器を選び、ドライフルーツなどのお茶請けも準備して、制作用のテーブルにセット。
9:20 手紙を書く
元気なうちに、手紙を書く
手紙を書くときは、お礼状やお祝いのメッセージなどが多いので、書いていて気分がよく、思いも素直にのせられそうな朝の時間帯に。送るタイミングも大切なので、早めに書くよう心がけているそう。相手によってカードの絵柄を選び、季節や色合いなども考えて切手を貼るように。
9:30~10:00 仕事開始
心身が整い、仕事を
画用紙を何枚も用意して、最初の数枚は地ならしのような感じ。集中していくと、徐々にいい線になっていき、やがて、「これは作品になる」というものが仕上がるように。「筆を握っていると、感覚がどんどん研ぎ澄まされていくので、私にとってはヨガや瞑想みたいな感じです」
<撮影/ヨシダダイスケ 取材・文/田中のり子>
伊藤尚美(いとう・なおみ)
書籍・広告・絵本などで幅広く活躍中。テキスタイルブランド「nani IRO」も20年目。作品の源となる暮らしを綴ったフォトダイアリー『詩を描くPOETRY TEXTILE』(ITSURA BOOKS)が好評発売中。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです