*1 「洗浄剤」とは、重曹やクエン酸など、合成洗剤以外の洗浄成分のあるものを指します。
新型コロナ対策にも掃除にも、アルコールは活躍
新型コロナウイルス対策として、ドアノブなど、複数の人が触れる部分の消毒に早い段階から推奨されているのが、アルコール(消毒用エタノール)。本橋さんは以前から、あぶら汚れやカビの予防など、幅広い箇所の掃除に活用し、使用をすすめてきました。
「新型コロナウイルスは、脂質の膜で覆われた『エンベロープウイルス』のひとつ。不活化させて、感染力をなくすには、脂質の膜を壊すことが効果的です。アルコール(消毒用エタノール)には、あぶらを溶かす性質があり、ウイルスの膜を壊すことができるからです。
その、あぶらを溶かす性質と、消毒の作用は、ふだんの掃除にも活躍します。揮発性が高く、二度ぶきの必要もなく、水が使えないものや場所の掃除にも使えますし、中性で、素手で扱うことができるのも魅力。供給が不足しているいま、改めて活用度の高さを実感しています」
塩素系漂白剤には細心の注意を
アルコール(消毒用エタノール)のほかに、消毒用に推奨されているのが、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)。強アルカリ性のため、取り扱いには十分注意してほしい、と本橋さん。ご自身は、人体への影響を考えて、ふだんから使用は控えているそう。
「吸い込んだり、肌に付着したり、目に入ったりすると危険で、クエン酸など、酸性の洗剤・洗浄剤に混ざると、有毒な塩素ガスが発生します。使用時はマスクやゴーグル、ゴム手袋で、口や鼻、目、手肌を保護して、換気をしながら使用しなければなりません。希釈液を手指に使用したり、スプレーボトルに入れて使用したりすることは厳禁です。
また、塩素系漂白剤にもさまざまな製品があり、製品によって成分の濃度が違うため、適正に薄めるための原液の分量がまちまちなのも難しいところ。掃除箇所の素材の劣化にも注意しなければなりません」
そして、塩素系漂白剤は、洗い流すか、水で二度ふきする必要があることも忘れてはならないポイント。
「浴室や台所などのシンクなど、洗い流しやすいところは、まだ使いやすいのですが……。ドアノブなどは、希釈液でふいた部分に成分が残らないように、しっかりふき取りましょう。同じ漂白剤でも、ナチュラルな洗浄剤として、カビ・雑菌の除菌やあぶら汚れの除去にも効果的な酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウム)があげられますが、これも同じように洗い流しかふき取りが必要です。また、新型コロナウイルスの消毒効果については、まだわかっていません」
消毒より前に、まず掃除を
家まわりの消毒に一生懸命になる前に、しっかり取り組みたいのは、ふだんの掃除、と本橋さん。
「室内には、カビの胞子や雑菌が浮遊しているのをご存知ですか? カビや雑菌は、20℃以上の温度、湿気などの水分、皮脂などのあぶら汚れや食品カスなどの汚れを好み、汚れに付着します。ほこりには、汚れが合わさるとカビ・雑菌の温床になるだけでなく、限られた時間ではありますが、新型コロナウイルスが付着し、室内を舞う可能性も。
汚れて、カビや雑菌が繁殖しているところにアルコール(消毒用エタノール)や塩素系漂白剤を使っても、汚れに洗浄成分や除菌成分が反応してしまい、肝心なウイルスの消毒効果が弱まってしまいます」
家時間が長いいまの時期は、ほこりを取り除き、汚れを取る、という基本の掃除ができているか、見直すチャンス。とくに、カビや雑菌の予防は、湿度が高まる梅雨前に行ってほしい、と本橋さん。
「カビや雑菌の予防には、アルコール(消毒用エタノール)を使うことを推奨していますが、比較的手に入りやすい、台所用のアルコール除菌剤でも代用できます(消毒用にはアルコール濃度が不十分なので、効果はありません)。新型コロナウイルス対策と隣合わせの今年こそ、カビや雑菌予防をしっかりしておくことをおすすめします」
<監修/本橋ひろえ イラスト/ホリベクミコ 構成・文/秋山香織>
本橋ひろえ(もとはし・ひろえ)
北里大学衛生学部化学科卒業。化学系企業で合成洗剤の製造などを担当し、結婚を機に退社。自身も子どももアトピー体質だったことから、改めて洗剤に興味を持ち、化学的根拠に基づき、合成洗剤を使わず、ナチュラルな洗浄剤で行う掃除・洗濯を提唱。著書に、『ナチュラル洗剤そうじ術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ナチュラルおそうじ大全』(主婦の友社)など。続編の『ナチュラルおせんたく大全』が5月末ごろ発売予定。