新緑が美しい季節になりました。いろいろなことがありますが、自然の中に身を置くと、ふっと心がゆるみます。そこで今回は、「木」が出てくる絵本を選びました。
『森はオペラ』(姉崎一馬/写真・文 クレヨンハウス)
この本は、自然写真家である著者が、森の木々を撮影した写真に言葉を添えた写真絵本です。
「森をあるくと 遠くで 近くで きこえる」
きこえるのは、低い声、高い声。響く声、かすれた声。
森に分け入ると、外界の音がシャットダウンされ、しーんとした静けさが訪れたのちに、風にそよぐ葉ずれや、木々のぴしっ、みしっと鳴る音などが絶え間なく聞こえてきます。
わたしはそれを歌と思ったことはありませんでしたが、自然に親しむ著者には、歌、それも壮大なオペラのように聞こえるのでしょう。
今度、森を訪れることがあったら、木々に耳をすませて、思い思いの歌を聞いてみたいと思うのです。
巻末には、本に登場する木がどこの何の木かキャストとして紹介してあって、木の名前を覚えられるのもうれしいですね。
『ぶたのたね』(佐々木マキ/作 絵本館)
主人公は、走るのが遅いおおかみです。
あまりにも遅いので、ぶたを捕まえられた試しがありません。
ある日、ぶたにばかにされたおおかみが泣いていると、きつね博士がやってきて、ぶたの実がなる木のたねをくれるというではありませんか。
ぶたのたねと、成長が早まる薬をもらったおおかみ。毎日、大切に育てていたら、とうとう、まるまると太ったぶたが何匹も実って……。
走るのか遅くて泣き虫なおおかみというユニークなキャラクターに、ぶたのなる木という奇想天外な設定は、かたくなった大人の頭をやわらかく刺激してくれます。
ちょっと心がくたびれちゃったな、というときに、ふふっと笑わせてくれるこういう絵本は、本棚の定位置に常備薬のように置いておきたいのです。
『木をかこう』(ブルーノ・ムナーリ/作 須賀敦子/訳 至光社)
世界的に有名なイタリアの美術家、ブルーノ・ムナーリによる、木の描き方を紹介する絵本です。
木の枝は、幹から遠くなるほど細くなります。そして2本に分かれるものや3本に分かれるものなど、さまざまありますが、2本に分かれるものは、まず幹から枝が2本出て、その枝がまた2本に分かれ、と成長していきます。
風に吹かれて曲がった木もあれば、枝が垂れてしだれ柳のようになった木もあります。2本の枝のうち、1本だけが長くなったり、短くなったりしたものも。
それでも、よく見ると、規則性は保っています。
この本では、いろいろなタイプの木を紹介しながら、その描き方を教えてくれます。
でも本当に大切なことは、木が上手に描けるようになることではないんですよね。ものごとの本質をよく見ること、そして、完璧でなくてもいいから、自分の手でつくってみること、いろいろ試してみること。
そんなメッセージが伝わってくる気がしますし、これはさまざまなことに当てはまるのだろうな、と思っています。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>