• 近所で買える、いつもの食パン。身近な存在ゆえ、つい適当な気分で食べてしまうけれど、工夫次第でとんでもないおいしさに。今回、そんな“普通のパン”の秘めたるポテンシャルをググッと引き出したのは、5月に復刊を果たした『ぱんぱかパン図鑑』の著者、料理家の金子健一さん。編集部の無理なオーダーに鮮やかに応える、いつものパンを最高においしくするアイデアを紹介します。
    写真について:山型食パンに炒めたさつま揚げとキムチを載せた「さつま揚げとキムチのオープンサンド

    いつもの食パンをとんでもなくおいしく

    お気にりのパン屋さんやスーパーで、気軽に手に取るいつものパン。

    そのまま食べても確かにおいしいけれど、さすがに毎日食べつづければ、その味わいにも飽きてくる……かといって、特別な材料を使ってあれこれ手をかけすぎるのも、これまたなんだか違う気がする。

    いつものパンを、いつもの素材を使って、なんとか新鮮においしくする方法はないものか? しかも、面倒な手順は一切なしで!

    そんなときに頼りになる人、といえば料理家の金子健一さん。

    もちろん、こだわるときには素材も調理法もとことんこだわる金子さんだけれど、今回はぜひ、「身近な材料でとんでもなくおいしく!」でお願いしましょう。

    金子さんという料理家は、なんたって、むちゃぶりしたときの鮮やかな返し技が素晴らしいのですから。

    画像: 調理中の金子健一さん。金子さんが営む食堂「Alps gohan」(長野・松本市)では、「ぱんぱかパン図鑑」の復刊を記念し、期間限定で木曜と金曜日に著書からのアレンジパンメニューを提供している。

    調理中の金子健一さん。金子さんが営む食堂「Alps gohan」(長野・松本市)では、「ぱんぱかパン図鑑」の復刊を記念し、期間限定で木曜と金曜日に著書からのアレンジパンメニューを提供している。

    ごはんに合うものは、結局、パンにも合う

    「パンには洋モノをはさむって、誰が決めたんでしょうね?」

    いきなり、ポツリ。ここに潜む、とんでもないヒント。しばらく考えて、金子さんは続けます。

    「うん、スーパーで買えるいつもの食パンは、まるでごはんなんです。ちょっと濃いめのおかずをやさしく包む、前に出すぎることのない控えめな味。それひとつだけで食べるとなんとなく、もの足りなく感じることもあるけれど、何かと組み合わせたときにそのおいしさを発揮する。そして、どんなものと組み合わせてもしっくりなじむ。ごはんに合うものって、結局、パンにも合うんじゃないでしょうか? 和でも洋でも合うってことは、本当はすごい懐の広さではないでしょうか?」

    そうです、普通の食パンは、実は偉大だったのです。

    画像: ごはんに合うものは、結局、パンにも合う

    思い立って、まず持ってきたもの。それは予想外のちくわ

    「ちくわって、なんとなく冷蔵庫に入っていますよね。お酒のつまみにもなるし、炒めものに使ってもいいし。これ、パンに挟んだらどうかなあ、と思ったわけですよ」

    さらに組み合わせたのは、こちらも冒険アイテムちりめん山椒

    画像: 「ちくわとちりめん山椒サンド」和のおつまみでおなじみの食材を、ある調味料の力でひとつにまとめたサンドイッチ。食感のおもしろさと、じわじわくるうま味を存分に。

    「ちくわとちりめん山椒サンド」和のおつまみでおなじみの食材を、ある調味料の力でひとつにまとめたサンドイッチ。食感のおもしろさと、じわじわくるうま味を存分に。

    「白いごはんに合うものは、きっと食パンにも合う。ただ、これだけではなんとも……いや、なんとも言いがたい味でした……助っ人の必要を切に感じましたね」

    和洋縦横無尽に、レシピを開発することを得意とする金子さん。食パンと、和の権化のちくわ&ちりめん山椒をつなぐ“何か”を必死に探りました。で、結果は?

    「正解は、マヨネーズ。ひと塗りするだけで、しっくりあっさり、まとまりました」

    ちなみにこちら、食パンはトーストしません。サクサクしているとちくわのプリッとした弾力と食感が調和しないのです。“ふわむち”な、焼かない食パンの“ごはん感”が、ちくわの歯触り、ちりめん山椒の風味と絶妙にマッチします。

    「これはイケる!」と金子さんは勢いにのって、次々と、食パンをあたかもごはんに見立てた斬新サンドを発明。

    画像: 「切り干しとひじきのカレー炒めサンド」パンのやわらかい食感と具のこりこり食感のコントラストが楽しい一品。食パンでつくってももちろんおいしい。

    「切り干しとひじきのカレー炒めサンド」パンのやわらかい食感と具のこりこり食感のコントラストが楽しい一品。食パンでつくってももちろんおいしい。

    ポイントは“なじませ食材”

    「試作を重ねるうちに、食感と風味の関係で、パンはトーストしたほうがいい場合とそうでない場合があるとわかりました。何よりポイントになるのが、“ちくわちりめん山椒サンド”における“マヨネーズ”のような存在です」

    それは、カレー粉、チーズなどの“なじませ食材”。洋の食パンと和の具材との橋渡しをしてくれるのだそう。

    画像: 「はんぺん味噌チーズサンド」さっくりパンとふわふわはんぺんのまとめ役は、とろけたチーズ。ごま油をひいたフライパンで厚さ半分のはんぺんを両面こんがりと焼くのがポイント。

    「はんぺん味噌チーズサンド」さっくりパンとふわふわはんぺんのまとめ役は、とろけたチーズ。ごま油をひいたフライパンで厚さ半分のはんぺんを両面こんがりと焼くのがポイント。

    画像1: ポイントは“なじませ食材”

    こうなると、凝り性の金子さんの研究意欲は止まりません。昨晩の残りの餃子も挟んでみたくなる。そのまま挟むだけでは飽き足らず、刻んでのせて、チーズと一緒にトーストしたら、無国籍なピザトーストが完成。

    餃子がイケるとなれば、常備菜の雄・きんぴらだってのせたくなってくる。試しにハーブを挟んだら、おふくろの味が、イタリアのマンマの味すら漂わせてきました。ひじき煮にいたっては、冷蔵庫にあったキムチを混ぜてホットサンドにするという合わせ技。

    パンは、もはやごはん! 白いごはんに合うものは、なんだって食パンにも合う! なんなら、ごはんに合わせるよりおいしい場合だって多々ある!

    ごはんのお供、のりの佃煮。まさかの秋田の郷土漬物・いぶりがっこ

    画像: 「のり玉サンド」つぶしたゆで卵にマヨネーズ、塩、こしょう、そして、砂糖の代わりに甘辛い“のりの佃煮”を。一気に和の雰囲気に。

    「のり玉サンド」つぶしたゆで卵にマヨネーズ、塩、こしょう、そして、砂糖の代わりに甘辛い“のりの佃煮”を。一気に和の雰囲気に。

    画像2: ポイントは“なじませ食材”
    画像: 「いぶりがっこツナサンド」一般的なツナサンドの具に、いぶりがっこのみじん切りを混ぜるだけ。いぶしたスモーキーな風味がクセになるオツな味です。

    「いぶりがっこツナサンド」一般的なツナサンドの具に、いぶりがっこのみじん切りを混ぜるだけ。いぶしたスモーキーな風味がクセになるオツな味です。

    いま、発売中の『ぱんぱかパン図鑑』には、あなたの常識を鮮やかに飛び越える、自由かつ絶品パンレシピが、これでもかの142種(+おまけの4つ)!

    おかずパンだけでなく、フレンチトーストやフルーツサンドなど、甘いモノ好きも大満足のラインナップです。

    みなさんも、ぜひ、好みのパンメニューを見つけて、いろいろ試してみてください!


    <料理/金子健一(つむぎや) 撮影/有賀傑 取材・文/福山雅美>

    金子健一(かねこ・けんいち)
    料理家。1974年神奈川県横浜生まれ。学生時代、和食店でのアルバイトがきっかけで調理師免許を取得。コピーライターを経てパン職人の道へ。東京・中目黒、原宿で愛されていたパン屋「オパトカ」の店長としてメニュー開発にも携わる。そののち、2005年にマツーラユタカとともにフードユニット「つむぎや」を結成。ケータリング、イベント、雑誌へのレシピ提案など幅広く活躍している。2017年に妻の地元長野県松本市に拠点を移し、ご縁のある農家さんのお野菜などを中心に旬を味わう食堂「Alps gohan」をオープン。『あっぱれ!おにぎり』(金園社)、『和食つまみ100』(主婦と生活社)、『お昼が一番楽しみになるお弁当』(すばる舎)など著書多数。『ぱんぱかパン図鑑』が電子書籍に続き、2020年5月に復刊したばかり。
    Alps gohan Instagram @alps.gohan

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    天然生活の本『ぱんぱかパン図鑑』(“つむぎや”金子健一・著)
    天然生活の本
    『ぱんぱかパン図鑑』(“つむぎや”金子健一・著)

    天然生活の本『ぱんぱかパン図鑑』(“つむぎや”金子健一・著)

    A5判
    定価:本体 1,300円+税
    ISBN978-4-594-08482-0

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