パンレシピの新たな扉を開く“ドテマヨ”
金子さん曰く、
「白いごはんに合うものは、たいていパンにも合う」のだそう。
だから、一見とんでもないものの組み合わせも果敢に挑戦します。のりの佃煮、明太子、キムチ、さらにはオクラに切り干し大根。それらを、とにかく、ぬる、のせる、はさむ。
しかし、そんなありきたりのテクニックでは、146種類もレシピを編み出せるはずがありません。厚切りパンに切り込みを入れた“ポケット式”、格子状に切り込みを入れてのしみこませ技……などなど『ぱんぱかパン図鑑』で披露された数あるテクニックの中で、今回注目したいのは、その名も“ドテマヨ”。
「食パンに、あらゆるものをのせて、こんがりトーストする。おいしくないはずがありません。ただ困ったことに、食パンは平坦なんですよね。モリモリにのせると、安定感が失われる。けれど具は減らしたくない。そこが悩みどころでした」
さまざまなアイデアの中でも、絶対おいしいと思ったのが、半熟卵。食パンに生卵を割り入れて、それをトースターでジワジワと焼く。こんがりトーストの中に、とろりと半熟の黄身!
とりあえず、厚切りパンを使ってみることは決まったけれど、“ポケット式”を採用して、切り込みに卵を割り入れたのでは、うまく熱が入らない。
しかも、ビジュアル的にもつまらない。せっかく卵を入れるなら、やっぱり黄身と白身のコントラストを生かさなきゃ!
シンプルに考えるなら、厚切り食パンのふわふわ部分をくり抜いて器状にするでしょう。そこに卵を落とせば、まあ問題ない。卵のビジュアルも生かせるし、卵が流れ出ることもない。
しかし、そのくり抜いた部分はどうする? その場でムシャムシャ食べる?
そんなことをしたら、せっかくの目玉焼きトーストを食べる前にお腹がいっぱいになってしまう!
「後ほど油で揚げてクルトンにいたしましょう」?……そんな手間のかかること、誰が朝っぱらからやるものか!
金子さんのとりあえずの結論。
“卵が入るように食パンの真ん中をギュッと押す”
おお! シンプルかつ、ムダがありません。とはいえ、割り入れた白身はゆるゆるとパンの外側に広がっていく……ピンチ! そこで、ひらめいたのです。
「もんじゃ焼きを焼くときに具材で“ドテ”をつくってゆるい生地の流出を防ぐように、何かで“ドテ”をつくればいいのだ」
“ドテ”があらゆる具材をせき止める
パンに合う、しかも手軽な“ドテ”……そこで白羽の矢が立ったのが、マヨネーズ。
トーストすれば、やや固まってくれるのもありがたい。しかも、焼くとおいしさが増すのです。
さあ、使える“ドテ”さえ見つかればこっちのもの。ミニトマトをぎっしり並べてみたり、
ドテそのものに味付けをしてみたり、
こっそり野菜を仕込んでみたり(実は、下にハムやズッキーニが敷き込まれています)。
ちなみに半熟目玉焼きのトーストも、実はあっと驚く立体ワザ。
実はワキからぎっしりキャベツが仕込まれていた! それは、とろーり卵とシャキシャキキャベツのたまらないハーモニー。金子さん、おいしさには決して手を抜かないのです。
「パンにのせたらうまかろう、しかしパンから転げ落ちるに違いない」。そんな具材をドテマヨがあっけなく救い、せき止める。
ドテマヨの誕生が、パンレシピの新たなる扉を開いたのです。
ぜひ、斬新な食べ方を参考に、日々の食卓に新たな彩を添えてみてください!
<料理/金子健一(つむぎや) 撮影/有賀傑 取材・文/福山雅美>
金子健一(かねこ・けんいち)
料理家。1974年神奈川県横浜生まれ。学生時代、和食店でのアルバイトがきっかけで調理師免許を取得。コピーライターを経てパン職人の道へ。東京・中目黒、原宿で愛されていたパン屋「オパトカ」の店長としてメニュー開発にも携わる。そののち、2005年にマツーラユタカとともにフードユニット「つむぎや」を結成。ケータリング、イベント、雑誌へのレシピ提案など幅広く活躍している。2017年に妻の地元長野県松本市に拠点を移し、ご縁のある農家さんのお野菜などを中心に旬を味わう食堂「Alps gohan」をオープン。『あっぱれ!おにぎり』(金園社)、『和食つまみ100』(主婦と生活社)、『お昼が一番楽しみになるお弁当』(すばる舎)など著書多数。『ぱんぱかパン図鑑』が電子書籍に続き、2020年5月に復刊したばかり。
Alps gohan Instagram @alps.gohan
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