(『天然生活』2014年8月号掲載)
大地との「つながり」を感じる暮らし
「植物は人間を元気にしてくれる特別な力をもっています。私も、障害のある娘のことで悩んだりと家族のことで苦労がありました。落ち込んだときは必ず庭仕事をするの。心のなかで花に話しかけていると平穏さが戻ってくるんです」というベニシアさん。
離婚を経験した彼女は、前夫との間に3人のお子さん、いまのご主人の正さんとの間にできた息子さんを含め、4人の子育ての難しさを感じたことも。
「どんな人でも悩みや問題があります。でもね、悲しんでばかりいては時間がもったいない。近くの公園を歩くのでもいい、小さなプランターで花を育てるのでもいい。美しい自然に触れることで救われます」
植物との距離が縮まると、「土や植物に負担をかける化学肥料や除草剤は使えない」という気持ちになるのだそう。
ベニシアさんはコンポストでつくった有機肥料を用い、虫よけにはハーブを近くに植え、自然に近いかたちで庭づくりをしています。
さらに、「洗濯で使った水は川に流れていく」というように、暮らしと自然がつながっていることを実感している彼女。掃除や洗濯には無添加の手づくり洗剤を使用しています。
床は、粉石けんにスペアミントや酢を混ぜた石けん水で、ふき掃除。化粧水にはバラを、顔用クリームにはラベンダーを入れて、植物の力を生活の随所に取り入れています。
「夏は、乾燥させたびわの葉でお茶をよくつくります。びわは昔から、食中毒を予防し、夏風邪をひいたときにも用いられていたそう。日本の伝統的な生活の知恵は勉強になります」
妊娠した際に体調管理のためハーブや植物の知識を身につけたベニシアさん。庭にたっぷりと植えられているハーブは時季がきたら収穫し、家の天井から吊るして乾燥させます。
そのあとは種類ごとに缶に分けて一年分をストック。お茶にしたり、料理に使ったりして、楽しんでいます。
「庭をもつことで、心も体もすこやかになります。お子さんがいる方は、一緒に庭づくりをしてみてください」とベニシアさん。
彼女は幼少期に数年、イギリス領のジャージー島で自給自足の生活を送っていました。
「野菜を収穫し、鶏に餌をやり、大自然のなかで過ごした毎日は、鮮明に心に刻まれています。自然との触れ合いは心を養うためにも大事な経験」
そこで、初めての庭づくりは「ひとりで管理できるサイズにとどめておいて」とアドバイス。広げすぎると庭仕事が続きません。
自分の庭では、太陽に輝く花びらや風で揺れる葉の動きを、頭をからっぽにして眺める―。
そんな何気ない時間が、私たちには必要なのです。
自宅のすぐ近くにある自家菜園
手づくりの化粧水やクリーム
手放せないガーデニング・ダイアリー
ベニシアさんのガーデンマップ
〈撮影/梶山 正 取材・文/梅崎奈津子 イラスト/にしごりるみ〉
ベニシア・スタンリー・スミス
ハーブ研究家。イギリスの貴族の家に生まれる。19歳のときに貴族社会に疑問をもち、インドなどへの旅を経て’71年に来日。’96年に大原にある築100年の古民家に移住する。自然と共生した生き方が注目を集め、著書も多数。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです