心地よい暮らしって何でしょう?
心地よさってたぶん、「自分にぴったり」ということ。それがたとえ、ちょっぴり古ぼけて、ちょっぴりダサくても、自分にぴったりであれば、気にならない、むしろ愛しい。
ところが、自分にぴったりの暮らしって、どこにも売っていません。だから自分でつくらなきゃならない。
この世で一番の贅沢って、「おあつらえ、オーダーメイド」だと思うんです。だって、自分のためだけにつくられたものなんですから。でも、自分でやれば、お金はかかりません。
自分の暮らしを自分であつらえる楽しみ、始めませんか?
私は「紙」派!
スマホアプリのスケジュール機能も使っていますが、メインはいまだに紙の手帳の私。
時間の流れを感覚的に把握でき、やり遂げた満足感が物理的に得られる点で、私にとっては紙が圧倒的に優勢です。
以前は、やりたいこと、やるべきことを残らず書き出し、それぞれに「締切」を設定する方式でやってきました。
「今週中に」
「来月中に」
「今年中に」
こうすることで、自分を奮い立たせ、期限内に遂行するためです。
実際、この方式で、やりたかったことをいくつも実現させてきました。完了したら文字の上に二重線を引いて消していきます。
「やりたいこと」が線で消される度に、達成感・充実感を感じることができ、いいものでした。
自ら設定した「締切」が重荷に……
ところが、40代も半ばを過ぎ、更年期症状が出始めると、自分で設定した「締切」が重荷になってきました。
体調も下降気味で、以前より明らかに体力・気力がなくなってきたのです。そのため、「やりたいこと」になかなか二重線が引けなくなってしまいました。
期限内に完了しなかった「やりたいこと」は、次の週なり月なりに再度書き写し、新たな締切を設定することになるのですが、この作業がなんだかつらい。
できなかった自分が情けなくもありますし、同じことを何度も書き写すうちに、すっかりイヤになってあきらめてしまうこともありました。
「締切が大事、と思っていたけれど、全部終わらないうちに寿命が来ちゃうかもしれないんだもんね……」
そんな自虐的な気分にもなります。
「締切」から解放してくれた「付せん貼りかえ方式」
そこで、もう「やりたいこと」にはっきりした締切は設定しないことにしました。(仕事などで、本当の締切のあるものは別)
生きてるうちにできればいいや、そんな気持ちで、もう手帳に「これをやるぞ!」と書き込んで掲げたりしません。
その代わり、小さめの付せんを用意しました。
考えつく限りの「やりたいこと、やらなければならないこと」を書き出し、手帳の後ろの方にあるメモ用ページに貼りだします。
それらを眺めながら、
「明日にもすぐできること」
「今月中にはできそうなこと」
「少し時間がかかりそうなこと」
「いつかできれば御の字」
など、難易度別にグループ分けしました。
手帳は、それまでの「ウィークリータイプ」から「ブロックタイプ」に変えました。
この方が、付せんでの管理に向いているようです。
ブロックタイプは、一週間の各曜日が左右見開きにブロック型で配置され、スペースの自由度が高いため、手書きの予定と付せんが共存しやすいのです。
難易度分けした付せんのうち、すぐできそうなものは、今週中のどの日かに完了するでしょうから、手帳の「今週」のページに分散して貼ります。貼る位置は、各ブロックの下の方。
完了したら、そのブロックの上に貼り直し、完了しなければ、翌日、あるいはできそうな別の日のブロックの、やはり下の方に貼り直します。
この方式にしたら、
「完了しなかった計画がいつまでも古いページに残っている」
「完了しなかった計画を何度も書き写す」
という辛気臭さがなくなって快適になりました。
何しろ、手帳には、
「できたこと」
「実現したこと」
しか残っていないのです!
なんだか、自分が急に実行力のある人になったような錯覚に陥り、いい気分になりました。
ヒントはサッカーの作戦ボード
この方式は、息子が小中学生の頃やっていたサッカーで、コーチたちがフォーメーションや作戦をホワイトボードにマグネットで示していたのがヒントになっています。
書いてしまったものは動かせませんが、貼ったりはがしたりできるマグネットなら、選手の位置を自由自在に動かせるのです。
手帳も、書き込むのではなく付せんの貼りかえを利用することで、やろうとしていることをもっと柔軟にとらえることができるようになりました。
積み残しが出てしまうのは相変わらずですが、付せんをどんどん貼りかえていきさえすればいいので、変に自分を責めなくて済みます。
できなかったことだって、そうやっているうちにけっこういつの間にかできていくんですから、私もそこまでダメじゃないじゃん、と思えてきます。
書いたり貼ったりしているうちに、頭の中が整理される
忙しい日が続いて、家事が滞ってしまったり、疲れていて何を先にやればいいのかわからなくなってしまったりすることもあります。
そんな時も、付せんは役に立ちます。
毎日やっているルーティンの家事でさえも、全部付せんに書きだすことで、どの順にやれば効率がよいか、今日の体調でできるのはどの範囲かがわかるのです。
これには本当に助けられています。
コツは、一つの家事であっても、あえて3つ、4つのタスクに分解すること。工程を細分化することで、作業がしやすくなり、心理的なハードルも下がります。
全部終わらなくても、「4つのうち3つ終わった」と自分を肯定的にとらえることができるのもメリットです。
時々、後ろのメモページに大量に貼ってある「やりたいこと」の中から、「そろそろできそうなこと」を拾い出してきて、「今週のページ」に貼ります。
そうやって、また少しずつ「やりたいこと」がかなうようになりました。
いまでは、付せんを4色に分けています。
黄 ……仕事、家事など「やるべきこと」
緑 ……趣味、勉強など「やりたいこと」
ピンク ……手芸、工作など「つくりたいもの」
青 ……買い物
<撮影/林 紘輝>
金子 由紀子(かねこ ゆきこ)
1965年生まれ。出版社での書籍編集者を経てフリーランスに。1973年、第一次石油ショックで大人たちの買いだめにショックを受ける。自らの出産・育児経験から「現実的なシンプルライフ」の構築の傍ら、All About「シンプルライフ」初代ガイドを務める。近著に『クローゼットの引き算』(河出書房新社)amazonで見る 、『50代からやりたいこと、やめたこと』(青春出版社)amazonで見る 、『ためない習慣』(青春文庫)amazonで見る ほか20冊以上。