日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。
秋の公園
もしずっと
このままボートに揺られていられたら
どんなにか忘れてしまえるだろう
空に広がる雲をながめても
イワシとかウロコとか
何かに似てると思ってしまうのが
今日はおっくうだ
かばんの中のノートを
この池の底に落っことして
書かれた文字を
ぜんぶ白紙に洗い流せたら
春には水面に浮かびあがって
ちりふる桜の花びらといっしょに
ボートのかたわらを漂えたかもしれないのに
白鳥の気持ちで
オールを漕いでいくと
やがて桟橋が見えてきて
たゆたう時間に
終わりが来てしまう
それでも
空と雲を映した池の上で
ずっとこのまま揺られていられたら
、て思ったこころだけは
まっさらなまま
くつひもを結び直したあとで
こんどは湖面を
ゆっくり渡っていこうか
季節の言葉:雀蛤となる(すずめはまぐりとなる)
もともと七十二候とは古代中国で生まれた暦ですが、かつては晩秋(寒露の次候)に「雀蛤となる」というファンタジックな候があったそうです。
空を飛ぶ小鳥が海の生きものに変わるだなんて、びっくりしますが、あるものが別のものに変化する、というのも昔の人が季節の変わり目を感じとる自然観だったのかもしれません。
早くも晩秋に移ろい、寒露が訪れます。露がひんやりと感じられる頃、という意味ですが、秋らしい秋をしみじみと過ごせる時期ではないでしょうか。
七十二候*では、十月八日から十二日まで、寒露初候の「鴻雁来る(がんきたる)」の候です。
冬の渡り鳥が姿を見せると、見慣れた景色も様変わりするよう。
*七十二候……旧暦で一年を七十二もの、こまやかな季節に分けた暦。日付は2020年のものです。
白井明大(しらい・あけひろ)
詩人。沖縄在住。詩集に『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊賞)ほか。近著『歌声は贈りもの こどもと歌う春夏秋冬』(福音館書店)など著書多数。新刊に、静かな旧暦ブームを呼んだ30万部のベストセラー『日本の七十二候を楽しむ ー旧暦のある暮らしー 増補新装版』(KADOKAWA)。
當麻 妙(とうま・たえ)
写真家。写真誌編集プロダクションを経て、2003年よりフリー。雑誌や書籍を中心に活動。現在、沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。共著に『旧暦と暮らす沖縄』(文・白井明大、講談社)。写真集『Tamagawa』。
http://tomatae.com/