食欲の秋、新米がおいしい季節がやってきました。今回は、炊きたてのごはんでさっとつくりたい「おにぎり」がテーマです。
『おにぎり』(平山英三ぶん 平山和子え 福音館書店)
「ごはんを たいて てのひらに、みずを つけて しおを つけて」
おにぎりの作り方を、子どもにもわかるように、丁寧に教えてくれます。
軽く握ったら、
「まんなかに うめぼし うめて」
のせて、でも、おいて、でもなく、うめて。
こういう言葉の選び方が、なにげないものなのか、熟慮した結果なのかわかりませんが、とてもいいなぁ、と思うのです。
声に出して読んだときに、リズムがいいんですよね。
おにぎりの絵が写実的で、おなかが空いているときにこの絵本を開くと、「ぐぅ〜」と鳴りますよ。
『オニじゃないよおにぎりだよ』(シゲタサヤカ作 えほんの杜)
「みなさん しっていますか?」
こんな呼びかけから、この絵本ははじまります。
何のことかと思えば、
「オニは おにぎりが だーいすき。
だから いつだって おにぎりを たべてばかります。」
鬼が山でおにぎりを食べているところに、でくわした人間たち、
こわがって、逃げてしまいました。
しばらくして、人間たちが残したお弁当のおにぎりを見つけた鬼たち、ひと口食べて、「なんだこりゃ〜!!!」
カチカチ、パサパサ、プーンと匂いまでするおにぎりのまずさにびっくり。
そして、いいことを思いつきました。
「まってろよ! いますぐ うまいおにぎり とどけてやるから!」
なんと、おにぎりをたくさんつくって、人間たちのところへ向かってしまいました。
鬼たちがやってくれば、人間たちの反応は予想がつきますよね。
人間はどうやら自分たちをこわがっているらしい、と気づいた鬼たち。
それでもどうしてもおいしいおにぎりを食べてもらいたいから、あることをします。
おにぎりが大好きな鬼たちらしい奇策に、声を出して笑ってしまうこと請け合いです。
『そよそよとかぜがふいている』(長新太さく 復刊ドットコム)
「ネコが でてきた。ペッタン ペッタン。」
表紙の左からつきだしていたのは、この猫の手でした。
すごく手の大きな猫なんです。
この大きな手で、何をするのかというと……。
「ギューッ、ギューッ
みんな おにぎりに してしまうのだ。」
出会った動物たちも、山も、ぜんぶをおにぎりにしてしまう猫。
なぜおにぎりにしてしまうのか、おにぎりをつくるのが大好きという以外に理由はありません。
この絵本の作者は、戦後、日本の絵本界を牽引した長新太さん。
いま活躍している絵本作家さんの中にも、長さんの大ファンだという人たちが大勢います。
そんな偉大な作家さんの最晩年の絵本は、ナンセンスで、ぶっ飛んでいて、絵がすごい。
次々におにぎりになっていく動物たちの絵を見ていたら、この絵が描きたかったんだろうなぁ、と思いました。
愉快で、エネルギーに満ち溢れた、不思議と元気が出てくる絵本です。
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長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>