• 東京郊外に生まれ、南信州に暮らすライター・玉木美企子の日々を綴る連載コラム。村での季節のしごとや、街で出会えたひとやできごと、旅のことなど気ままにお伝えします。今回は、同じ村に暮らすガラス作家さんのもとを訪ねた時のお話を。

    天竜川を見下ろすアトリエで聞いた、ガラス作品製作への思い

    寒さが厳しくなってきました、お元気でおすごしでしょうか。

    伊那谷では先日、初霜が降りました。

    そこからタタタッと駆け足で風が冷たく感じるようになり、一気に本格的な冬に近づいてきたと感じるこの頃です。

    もちろん、寒さは身にこたえますが、楽しみもあります。

    今年はなんといっても紅葉の美しさ。

    この辺りでは庭先にドウダンツツジを植えているご家庭が多いのですが、今年はこれがハッとするほど赤く、車の窓からでも目に飛び込んできます。

    それに関連しているのか、りんごもいつもより色づきが良いようです。

    ある日、村の大先輩の畑を訪れてみると、絵に描いたような真っ赤な果実がたわわに実っていて。

    高所作業車に乗せていただき見下ろした景色は怖さよりも美しさが優って、この土地に暮らす喜びに胸がいっぱいになりました。

    画像1: 天竜川を見下ろすアトリエで聞いた、ガラス作品製作への思い

    さて、今回から何回かにわけて、今年の夏に私が訪ねた村に暮らすつくり手のみなさんのことをご紹介できればと思います。

    まずは、ご夫婦で手吹きガラスの工房を構える「錬星舎」さんから

    画像2: 天竜川を見下ろすアトリエで聞いた、ガラス作品製作への思い

    池上直人さん、西村由美さんご夫妻は、ともにガラス工芸研究所で学んだのち、まず高知県にて工房を構えたのだそう。

    その後、池上さんの故郷である伊那谷に戻り、2002年より現在の場所を拠点とされています。

    天竜川を眼下に望む、サンクチュアリのようなその場所では、コウノトリの飛来を目撃したこともあるのだとか。

    村のなかでも特別、不思議なくらい穏やかな時間が流れるガラス工房ではこの日も、お二人のガラスとの格闘が行われていました。

    画像3: 天竜川を見下ろすアトリエで聞いた、ガラス作品製作への思い
    画像4: 天竜川を見下ろすアトリエで聞いた、ガラス作品製作への思い

    透明なガラスのみを使った作品を主とする池上直人さんと、逆にカラフルな色使いが印象的な西村由美さん。

    いずれも、自然のなかに息づく曲線を思わせるような、自由で豊かな造形が印象的です。

    目の前でみるみるうちに作品が生み出されていく、その様子を見ているのももちろん感動的なのですが、私が工房を訪ねるもう一つの楽しみは、お二人と話をすること。

    「錬星舎」という素敵な屋号を付しているお二人だけあり、お邪魔するたびに語られる言葉たちの “歯ごたえ” が素晴らしくて。

    つい、あれこれお聞きしたくなってしまいます。

    「なぜ、フリーハンドでの制作手法を中心としているのですか?」

    この日私が投げかけた問いに、池上さんが炉の前で、こんな風に答えてくださいました。

    「硬くて割れやすいというのが、ふだん目にするガラスに対する印象だと思います。

    けれど、私の仕事で接している炉の中のガラスはこんなに光り輝き、とろけた液体なんです。

    高エネルギーで自由で、ただ見ているだけでも美しい。

    そんなときのガラスの記憶を、作るという作業を通してできあがる作品に込めたい。

    ライブ感やフリーハンドにこだわりたいのは、そんなことからです」

    ガラスが柔らかかったときの記憶……。

    今にも動き出しそうな造形の由縁が、少しわかったような気がするとともに、池上さん、西村さんがガラスという素材に向き合う必然にも、触れられたような思いがしました。

    画像5: 天竜川を見下ろすアトリエで聞いた、ガラス作品製作への思い


    画像6: 天竜川を見下ろすアトリエで聞いた、ガラス作品製作への思い

    玉木美企子(たまき・みきこ)
    農、食、暮らし、子どもを主なテーマに活動するフリーライター。現在の暮らしの拠点である南信州で、日本ミツバチの養蜂を行う「養蜂女子部」の一面も

    <撮影/佐々木健太(プロフィール写真)>



    This article is a sponsored article by
    ''.