お笑いコンビ、たんぽぽの白鳥久美子さんは、おばあちゃんっ子だったこともあり、「ばあちゃん仕事」に憧れ、愛してやみません。今日も、手を動かして、暮らしを作る。白鳥さん流の「楽しい小さな暮らし」をご紹介します。今回は、密かな楽しみ隅田川の散歩について。
おセンチな魔法
私の密かな楽しみに隅田川の散歩があります。
昔から東京に住むなら、隅田川の近くがいいと思っていました。
だって、東京はかつての江戸で、江戸と言ったらやっぱし隅田川ですからね。てやんでい。
この薄っぺらい知識からもにじみ出ている通り、私は隅田川の歴史については、さっぱりです。もとい日本史もさっぱりです。
「隅田川って、ほらあれ、春のうららの隅田川ですな……」くらいのレベルでしか語れません。
それなのに、なぜだかずっと、隅田川にはノスタルジックな憧れを持ち続けていました。
己の40歳が近くに見えた頃、やってみたかったことを出来る限りやってみよう と思いました。
そして当時住んでいた目黒近辺のマンションから、隅田川近くに引っ越すことにするのです。
隅田川は汚い。というイメージを持たれている方も多いと思うのですが、今はとてもきれいに整備されていて、隅田川テラスと呼ばれる川沿いの遊歩道では、ベンチで語らう人や、ジョギングにいそしむ人、手を繋いで散歩するご夫婦などが行き交って、外国と見紛うほどです。
蔵前の辺りは、東京のブルックリンなどと呼ばれているそうです。
私はブルックリンに行ったことは1度もないのですが、散歩量を考えたら、もう行ったことにしていいと思っています。強気です。
特に私が、胸を高鳴らせながら向かう場所があります。
それは 「蔵前橋」 です。
好きなのは夜。ライトアップされた蔵前橋は圧巻です。
水面に反射する灯り。その灯りを拭うように渡る屋形船。橋の下をくぐると、「あれ? 今、魔法かけられてるかも?」と錯覚するほどの光が私を包みます。
その光を抜け、川のちゃぷんちゃぷんという音に耳を澄ますと、この川が海に繋がっていることに気がつきます。
「ああ、こんな息苦しい東京でも、どこかで何かが波打っている。それは流れて、どこかに広がっていくのだから、たぶん色んなことは大丈夫なんだろう」
そうノートに綴って、私は家に帰ります。
ほどよい疲れが、心地よい睡眠につながって……
そして朝。
ノートを見た私は赤面します。
なんだこのポエムは……
語っている。
一丁前になんか書いているけど……
なんのこっちゃ分からない。
おセンチな魔法が解けた私は、38歳。
恥ずかしさに身悶えること、瀕死のミミズの如し。
なぜ隅田川に惹かれるのかは、未だに言語化できませんが、少なくとも私のポエトリーな部分を刺激する場所であることは間違いないようです。
白鳥久美子(しらとり・くみこ)
1981年生まれ。福島県出身。日本大学芸術学部卒。2008年に川村エミコとたんぽぽ結成。10年、フジテレビ系『めちゃ2イケてるッ!』の公開オーディションで新レギュラーの座をつかみ一躍人気者に。コンビとしての活動に加え、テレビ、ラジオ、ドラマ、舞台など多方面で活躍中。趣味は、散歩、高圧電線観察、シルバニアファミリー。特技は、詩を書くこと。唎酒師(日本酒のソムリエ)の資格ももつ。